「ハンガリーからオーストリア経由でバスや列車でドイツ入りしたシリア難民はほとんど豊かな階層出身者だ。彼らを難民と呼ぶことに僕は少々抵抗を覚えるね」
アフリカから逃げてきた元難民のF君はこのように呟いた。
「彼らは財産を売って数千、数万ドルの現金を持って逃げてきた。必要に応じて問題が生じたら金を渡して解決する。例えば、シリアからトルコ入りする場合、トルコの国境警備員に賄賂を払えば、容易に入国できるよ。金のないシリア人はシリア国境近くのトルコ側の難民収容所やレバノン、ヨルダンの収容所キャンプに留まらざる得ない。トルコ当局は①クルド系シリア人、②シーア派イスラム教徒、③キリスト教信者、この3つのカテゴリーに入るシリア人やイラク人はトルコ入りさせない。ギリシャやセルビア、ハンガリー経由で西側に避難し、ドイツに行くことはできない。だから、レバノン、ヨルダンなどの収容所キャンプに留まるわけだ。一方、金を持っている豊かなシリア人は金を払ってトルコ入りし、必要ならば不法移民あっせん業者に数千ドルを払って西側に行く。彼らの中には高い教育を受け、博士号やエンジニアの資格を有する難民が少なくない」
ハンガリー入りしたシリア難民たちは口々に、「ジャーマニー、ジャーマニー」とドイツ行きを要求した。ドイツに親戚や家族を持つ難民が多く、そこで世話になることができるからだ。ちなみに、先週末、ハンガリーからオーストリア入りしたシリア難民約1万5000人のうち、オーストリアで難民申請をした数は89人だ。ほぼ全ての難民がドイツで難民申請をした。オーストリア政府がハンガリーからの難民を受け入れたのは、大多数の難民が自国に留まらず、ドイツへ行くことを知っていたからだ。
メルケル独首相は、「今回の処置は例外だ」と述べたが、今後も多くの難民がドイツを目指すだろう。ドイツ政府の予想では、今年80万人の難民が来るという。
F君は、「ドイツは大量の難民を受け入れたが、ドイツ側は、シリア難民のうち約4万人の若い世代がドイツで専門職に就く一方、シリア内戦が終了すれば、多数の中高齢のシリア難民は母国に戻ると計算している、と聞いた」という。ドイツのナーレス労働社会相は、「難民を歓迎する。不足する労働力をカバーできる」と喜んだという。
キャメロン英首相は7日、独仏両国の圧力もあって5年間で新たに2万人のシリア難民の受け入れを表明したが、「英国が受け入れるシリア難民は西側入りしたシリア難民ではなく、レバノンやヨルダンに収容されている孤児や子供たちを優先する」とわざわざ付け足している。同首相にとって、トルコ経由で西側に逃げたシリア難民は余りにも豊かな難民というわけだ。
最後に、F君は、「サウジアラビアやクウェートがシリア難民をなぜ救援しないかという理由は明確だ。シリアで400万人の難民が発生した直接の原因はサウジだからだ。シリア難民はサウジが生み出した所産だ」と説明した。そして、「欧米諸国は高い教育を受けたシリア難民を歓迎するが、アフリカ難民には余り関心がない。彼らの多くは無教育で欧米会社の労働力とはならないからだ」と笑いながら語った。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年9月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。