安保法案をめぐるバカバカしい騒ぎを見ていると、自衛隊と安保条約が日本人の平和ボケを助長してしまったようだ。安全は皮肉なサービスで、完璧に供給すると「警備なんかいらない」と思うので、マフィアはたまに殺人事件を起こして「需要」を作り出す。だから安全サービスは公共財で、市場で供給してはいけないと経済学の教科書には書いてある。
日本のような安全がとても貴重なものであることは、外国でタクシーに乗ってみればわかる。ニューヨークのケネディ空港では白タクが客引きをしていて、うっかり乗ると市内まで200ドルぐらい取られる。バンコクには三輪車のタクシーがあるが、必ず大きく遠回りする。だからタクシーはどこの国でも免許制で、警察などが取り締まるのが普通だ。
しかしいま世界で話題のUberは、この常識を破った。これは一種の白タクで、日本では参入が難航しているが、こういうトラブルはほとんどない。スマートフォンで配車するだけでなく、ルール違反は乗客が配車センターに通報するので、悪質なドライバーは排除されるからだ。これはeBayやヤフオクなどでルール違反が少ないのと同じ評判メカニズムである。
空室の利用サービスAirbnbも同じで、これも民宿みたいなものだが、スマホで管理されているので、悪質な業者は排除される。つまりこうした共有サービスの本質は、安全の民営化なのだ。今までは安全確保は公共サービスが独占してきたが、ITによってそれよりはるかに安く良質な安全サービスが可能になった。
このような「シェアリング・エコノミー」がなかなか広がらない最大の原因は、規制と業界の既得権である。評判メカニズムで安全が民営化されると競争が促進されて価格が下がるが、許認可行政が無駄になるので役所は反対し、タクシー業界や民宿業界も免許による参入障壁がなくなるので反対する。
これは職業免許をめぐって続いてきた争いと同じだ。訴訟も税務申告も本人ができるのに、弁護士や税理士は免許がないとできない。論理的には成り立たない規制が、業界団体の政治力が強い業種では残っている。
要するにこれは、役所や既存業者と消費者の闘いなのだ。タクシー業界も多額の政治献金で知られるので、日本でシェアリング・サービスが普及するのはむずかしい。これを突破する力は、ユーザーの支持しかない。