岐路に立つ米中関係

習近平・オバマ会談は勿論初めてではないが、国賓としてホワイトハウスを訪問するのは初めて。だがこれまでの米中首脳会談とは比較にならない寒々としたものになりそうだ。習近平が最初にボーイング社のあるシアトルを訪れるのは、中国がアメリカ航空機産業の上得意であることを思い出させるためのパフォーマンス。

米中関係の課題は多岐に亘る。経済的には中国外しを狙うTPP、米国主導の世界銀行やアジア開発銀行へ挑戦する中国のAIIB、人民元の切り下げ、FRBの金利引き上げに伴う中国からのキャピタルフライト懸念等があり、政治的には中国の南支那海の岩礁埋立、東支那海における防空識別圏の設定、尖閣諸島海域侵犯、サイバーテロ、急ピッチの軍拡等。
中国の公安当局が、亡命した自国の汚職役人を狐狩りと称して密かに捜査しているのも米国をいらだたせている。

習近平の訪米とローマ法王の訪米が重なったのは、習近平の訪米を目立たなくさせるためのアメリカの深慮。しかもローマ法王の議会演説は認めたのに習近平に認めなかったのは露骨な冷遇だ。

これまで中国に宥和的であったバイデン副大統領やライス補佐官もやっとその危険な膨張主義に気づいたように見える。

米中会談では成果が望めそうもないので、日程に国連演説をいれたのかなと勘ぐりたくなる。
そもそも国連は、第二次大戦終結前に聯合国だけで作った組織だ。恐らく習近平の国連演説は、自国がファシズムと戦った聯合国の一員でありアメリカの同盟国であったことを強調し、第二次大戦終結後の世界秩序を尊重せよ(日本に対し)と締めくくることになるだろう。そこで朝鮮半島で米中両国が血みどろの死闘を繰り広げたことも、中ソ対立が全面戦争寸前にまで昂進したことも、日中国交回復後の日本の経済援助にも触れることはない。
参考までに中国語では国際連合ではなく聯合国。英語ではthe United Nationsだからむしろ日本語の「国際連合」が誤訳だ。

新型大国関係
オバマ政権は、中国が新型大国関係を提唱したのに呼応し当初露骨な中国重視、日本軽視政策をとったが、もはやこの「新型大国関係」なる言葉を使わなくなった。

中国が新型大国関係という時、「米中は互いの縄張りを尊重しましょう。南支那海と東支那海はわが国の縄張り」ということ。それにしては中国は第二パナマ運河構想等、アメリカの縄張りであるはずの中米への進出の動きを見せているのだから矛盾している。

中国が新型大国関係に言及したのは恐らく以下のニュース記事が最初だろう。
2008年3月12日の産経ニュース
米太平洋軍のキーティング司令官(海軍大将)は11日の上院軍事委員会公聴会で、昨年5月に司令官として初めて中国を訪れ中国海軍高官と会談した際、太平洋を分割し米国がハワイ以東を、中国が同以西の海域を管理してはどうかと中国側から“提案”されたことを明らかにした。  司令官は「面白半分の冗談」と断りつつ、こうした“提案”は「中国人民解放軍が抱いているかもしれない戦略構想」の一端を示しているとも指摘。中国は「明らかに自国の影響力が及ぶ範囲を拡大したいと考えている」と証言した。   以上産経ニュースから転載

その後の中国の行動はこの構想が決して「面白半分の冗談」ではなかったことを示している。

後世この2008年こそ、鄧小平の遺命である韜光養晦(力がつくまで対外政策は控えめに)政策の転機であったと記憶されることになるだろう。

青木亮

英語中国語翻訳者