オーストリアのオーバーエスターライヒ州議会選挙(定数58議席)の投開票が27日、実施され、ピューリンガー州知事が率いる与党の国民党が得票率約36・4%で第1党を維持する一方、極右政党「自由党」が前回(2009年)のほぼ倍の得票率約30・4%を獲得して第2党に大躍進し、社会民主党は約18・4%で第3党に後退した。投票率は約81・6%と高く、有権者の選挙への関心の高さを示した(表参照)。
▲躍進する自由党のシュトラーヒェ党首(オーストリア自由党のHPから)
オーストリアの州議会選の行方は日本の読者には余りにもローカルなテーマと思われるだろう。これまではそうだったが、今回は例外なのだ。同州議会選の結果は今後、北アフリカ・中東諸国から難民が殺到する欧州連合(EU)加盟国で表面化するだろう極右派政党の躍進を告げる前奏曲となる可能性があるからだ。
オーバーエスターライヒ州(州都リンツ)の議会選では州の経済問題、失業者対策は最後まで争点とはならず、殺到する難民への対応問題が有権者の関心を独占した。すなわち、同州議会選はファイマン連邦政府(社民党と国民党連立政権)の難民対策に対する有権者の信任投票の様相を帯びていたのだ。そして結果は、難民・移民に対して厳格な規制を求める自由党が独り勝ちし、大躍進した。
ピューリンガー州知事(国民党)は、「選挙戦では州が抱えている諸問題に対して議論はまったくなく、難民の対応問題が独占した」と指摘、自由党が殺到する難民の受け入れで不安と恐怖を感じている有権者の票を独り占めしたと分析している。
それに対し、同州の自由党代表ハイムブフナー氏は、「わが党は国民に不必要な不安を煽っているのではない。紛争地で迫害された難民に対しては人道的観点から受け入れるべきだが、経済目的の移民に対しては拒否すべきだと主張しているだけだ」と説明、自由党の躍進を恐れる他党が自由党への中傷誹謗を繰り返していると反論している。
なお、自由党のシュトラーヒェ党首は、「オーバーエスターライヒ州選挙の結果は明らかだ。国民はファイマン現政権の難民受入れ政策に不安を持っているのだ。来月11日実施のウィーン市議会選では何が起きてももはや不思議ではない」と指摘、戦後からウィーン市議会を独占してきた社民党を破り、自由党が第1党に躍進する時を迎えていると自信を深めている。
なお、ファイマン連邦首相は、「選挙結果には失望した。選挙は国民の不安を煽る扇動家が勝利した」と述べ、自由党がウィーン市議会でも躍進する可能性が出てきたとして警戒している。
選挙の結果、州議会は国民党が21議席(7議席減)、自由党18議席(9増)、社民党11議席(3減)、「緑の党」6議席(1増)となった。今後、国民党主導の連立工作が始まるが、社民党と「緑の党」は自由党との連立を拒否しているため、国民党と社民党に「緑の党」を加えた3党間の連立工作が進められるものと受け取られている。
いずれにしても、オーバーエスターライヒ州議会選の結果が欧州の政界に影響を与えることは必至だ。殺到する難民・移民問題は極右派政党に勢力拡大の絶好の機会を提供していることが改めて明らかになったからだ。
来月11日に実施されるウィーン市議会選が文字通り、欧州に殺到する難民・移民の運命をも左右する一大政治イベントとなることは間違いないだろう。
■オーバーエストライヒ州議会選挙結果(集計100%)
政党 得票率 前回比 議席(定数56議席)
国民党 36・4% 10・4%減 21議席(7減)
社民党 18・4% 6・6%減 11議席(3減)
自由党 30・4% 15・1%増 18議席(9増)
緑の党 10・3% 1・1%増 6議席 (1増)
※投票率81・6%
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年9月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。