中国外務省の洪磊報道官は先月30日、日本人2人をスパイ容疑で逮捕したことを明らかにした。中国は昨年11月、海外スパイの摘発を目的に「反スパイ法」を施行したが、2人の日本人はその「反スパイ法」で拘束されたわけだ。逮捕された2人のスパイ活動容疑の詳細な情報が明らかになっていないから何もいえないが、日本の情報機関は情報の収集はするが、外地でオペレーション(工作)はしない。
▲ウィーン大学キャンパス内にある中国対外宣伝機関「孔子学院」(2013年9月21日、撮影)
ところで、日本は外国にとって「スパイ天国」だということをご存知だろうか。わが国には「スパイ防止法」がないからだ。諜報活動が発覚したとしても、せいぜい国外追放されるだけだ。拘束されたり、生命の危険がないから、外国人スパイは気楽に好き勝手な諜報活動を行っている。
特に、ロシアや中国からの経済スパイが暗躍する今日、日本は「スパイ防止法」を施行し、外国人スパイを取り締まればいいのだが、主権国家としての当然のこの権利ですら、「スパイ防止法」は言論や報道の自由に反し、人権を蹂躙する恐れがあるという屁理屈をこねて反対する政治家やメディアが日本国内に存在するのだ。「安全保障関連法案」を「戦争法案」と言い直して反対したように、彼らは「スパイ防止法案」を「国家機密法案」と呼び、反法案プロパガンダを展開させてきた経緯がある。
「スパイ防止法」に反対する日本人はウィーンを一度視察されたらいいだろう。当方はこのコラム欄で「スパイたちが愛するウィーン」(2010年7月14日参考)を書き、冷戦時代からオーストリアの首都ウィーンで暗躍するスパイたちについて紹介した。
「なぜ、ウィーンか……」と思われる読者のために、東西スパイたちが“音楽の都”を愛する理由として、①ウィーンが地理的に東西両欧州の中間点に位置、②オーストリアが中立国家、③ウィーン市が第3国連都市であり、石油輸出国機構(OPEC)など30を越える国際機関の本部がある、等を挙げておいた。
スパイたちは自国大使館の1等、2等書記官、ジャーナリスト、国連職員、国際機関スタッフとして潜伏している。「会議は踊る」と揶揄されたウィーンでは、舞踏会のシーズンとなれば到る処からワルツが流れる。そのワルツに乗ってスパイたちが息を潜めながら舞い続けているのだ。
例を挙げてみよう。中国はウィーン市内に国営レストラン(表向きは普通のレストラン)を経営し、他国の外交官や国連幹部を食事に招き、接待している。ウィーン大学の中国科には多数の自称留学生を送り込み、大学内に「孔子学院」(Konfuzius Insutitute)を開設し、そこで大学教授や知識人を招き、北京旅行に招くなどをして親中派知識人を育成している。オーストリア内務省が毎年発行する「憲法保護報告書」には諜報・スパイ活動に関連する項目がある(「『孔子学院』は中国対外宣伝機関」2013年9月26日参考)。
同じように、日本ではロシア人や中国人スパイたちが「スパイ天国」を満喫しながら、日本の最先端技術を狙っている。中国が「反スパイ法」を施行したように、わが国も中国人の諜報活動を取り締まるために「スパイ防止法」を国会で再度議論すべきだ。
不思議に思うのは、中国が昨年11月、「反スパイ法」を施行した時、日本で「スパイ防止法」に反対してきたジャーナリストや知識人たちから批判の声が上がらなかったことだ。彼らが「日本ではダメでも中国では許される」と考えているとすれば、彼らはどこの国の人間かを知りたいものだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年10月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。