軋む音が聞こえる世界経済

悪循環という言葉の意味は悪いことが次々と重なって大事に至るということですが、世界を見ているとどうもそんな傾向が見え隠れしてきたような気がします。

きっかけは三つあったと思います。原油安、中国経済異変、そしてISの活動です。これらは今年の早い時期、ないしそれ以前からあった問題や傾向ですが、どれも解決できないまま、夏を過ぎたところで面倒な問題がさらに付け加わりました。

まず、欧州難民問題。また、追い打ちをかけるようにフォルックスワーゲン社問題。更に習近平国家主席の訪米の際に露呈化した米中の温度差とかみ合わない関係、おまけにプーチン大統領がシリア アサド政権を支持することを提案した点まで付け加わりました。ほとんど関係ない組み合わせ同士にみえますが、元からあった原油、中国経済、ISの問題にある程度リンクしており、地球儀ベースの異変に繋がる可能性を秘めているということであります。

欧州については難民問題の中心であるドイツでは流入が止まらない難民にメルケル首相が(この状態が続けば)人の自由な移動を制限するかもしれないと発言したことに注目しています。このコメントに注目したメディアはあまり無いようですが、この意味は現在のユーロ圏の根本的枠組みを見直す可能性を示唆しているようにも取れます。ドイツはギリシャ問題で国内の強硬派を抑えるのに苦労したにもかかわらず、チプラス首相が再選され、またやんちゃをされるのか、と苦い思いをしているところであります。おまけに流入する難民、その中にはISなど国家安全上危惧される者も相当含まれると噂されているのです。

そこに降ってわいたのがフォルックスワーゲン問題で単なる技術的事情ではなく、相当悪質で根深いドイツ産業の根本を揺るがす事態にすら発展する公算もあります。相当以前からわかっていた話なのになぜアメリカがこの時期に暴露したのか、これは偶然だったのだろうか、と思うとこちらもちょっと引っかかるのであります。

中国の問題、特に米中首脳会談の件については本ブログで既に取り上げているのでそちらを参照いただくとして、気になるのは中国の存在感をアピールすればするほどアメリカの中国に対する態度が冷たくなるという点であります。クリントン女史が習近平国家主席の中国人権問題に対する姿勢にストレートに批判したことを含め、今後、アメリカが中国に無遠慮なボイスアウトする傾向が高まりやしないでしょうか?

その一方で、中国の経済が悪化すればするほど世界の中国に対する注目度と期待度が下がる点に習近平国家主席はもっと注意を払うべきでしょう。今後この傾向が強まれば中国の孤立化という問題を抱えないとも限りません。

四点目にプーチン大統領のかく乱であります。アサド政権と手を結ぼうという提言は中東にカオス(chaos=無秩序、大混乱)を招くことになります。なぜ、プーチン大統領がそんなことを今、言い出したかといえば原油価格の高騰を図りながらロシアの発言力を高めようとしていることが一つあるでしょう。その上、難民問題で頭を抱える欧州としてはアサド支援は悪い話ではなく、結果として欧米間のスタンス違いが表れることになるのです。

中東をめぐる問題はパズルを解くようなものでそこに手を出そうものなら絡んだ糸が余計こんがらがるのであります。つまり魑魅魍魎が跋扈することになり、プーチン大統領の発言はトンデモ提案なのであります。

これだけ混とんとしているのにイエレン議長が先週末に発した「今年中に利上げに踏み切りたい」という趣旨の発言もよくわかりません。カリフォルニア大学のデロング教授の寄稿によるとアメリカはかつて利上げに転じることが過去40年で4回ほどあったそうですが、どれも過激と言えるほどの激震を伴っているとのことです。(南米不況、S&L破たん、リーマンショックなど)今回、この状況での利上げがどれだけリスクを伴うかはイエレン議長が一番分かっていると思います。アメリカの行き過ぎた自動車割賦販売事情や回復基調にある住宅市場も気になるところです。

事実、本日発表されたアメリカ9月度雇用統計は期待を大きく裏切る142千人増にとどまり、7,8月分も下方修正されました。よって、トレンドとして雇用も下向きになっていることを確認する事態となっています。また改めて取り上げますが為替の風向きが変わりそうです。ドル安バイアスがかかりそうです。

こうやって見渡すとどの国もどの人もセルフィッシュ(我儘)という言葉が浮かんできます。昔はもっと協調できる余力があった気がしますが、今は自分の利益を求めてとてもギスギスした世の中になっているように感じてしまいます。どこかに安心はあるのでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 10月3日付より