安倍首相は9月の経済財政諮問会議で、「携帯料金などの家計負担の軽減は大きな課題だ」と発言しました。高市総務相は「年内に料金を下げる具体策をまとめる」と答え、総務相には検討チームができたそうですが、政府が携帯電話の料金を決めるんでしょうか?
昔は携帯電話の料金が認可制になっていましたが、今は自由です。NTTが圧倒的なシェアをもっている固定電話と違って、携帯電話では競争があるので、政府は介入しないのです。日本は統制経済ではないのに、政府が料金を下げる「具体策」ってあるんでしょうか?
菅官房長官は諮問会議で「通信3社の寡占状況が続いている。もっと競争ができるような環境をつくっていただきたい」と発言したそうですが、このあたりにねらいがあるのかもしれません。菅さんは総務相だったとき、4社目のウィルコムを入れようとして失敗しました。あまり使いやすい電波があいていないからです。
しかし実は、電波は余っています。次の図は東京スカイツリーから関東1都6県に放送しているUHF帯の電波ですが、21チャンネルから27チャンネルまでで主なチャンネルはすべて放送しています(これ以外に放送大学が28チャンネル)。ところがテレビ局は、52チャンネルまでもっています。つまり関東では、29チャンネルから52チャンネルまでの24チャンネルは、まったく使っていないのです。
24チャンネルというのは144メガヘルツ、今のスマートフォンなどが使っている電波がすっぽり収まります。つまりテレビ局の使っていない電波を使えば、携帯電話の電波は今の2倍になるのです。これは関東の例ですが、SFNという技術を使えば、全国で同じことができます。それはすでにスカイツリーでやっていることで明らかです。
日本以外の先進国では、これを電波オークションで割り当てています。オークションというのは、政府が電波を競売にかけて、一番高い値段を出した会社に売ることです。2008年に行なわれたアメリカのオークションでは、UHF帯の約100メガヘルツが約200億ドル(2兆4000億円)で落札されました。
日本のUHF帯もあけて同じように売り出したら、1兆円以上の国庫収入が上がるでしょう。政府はいろんな政策に税金を使っていますが、オークションで政府はもうかるのです。まるで夢みたいな話ですね。この電波は今の4Gで使っている帯域の隣なので、新しい業者が買って参入することも、今の業者が買うこともできます。
こうして携帯電話の電波をふやせば、競争が促進されて料金が下がるでしょう。経済学の教える通り、供給される電波が増えると料金は下がるのです。テレビ局は今までどおり放送できるので、だれも損しません。これが統制経済ではなく、携帯の料金を下げる正しい政策です。