慶応SFCは二子玉川に移るべきか?

※SFC25周年記念事業実行委員会の特設サイトSFC25

どうも新田です。学生時代は、新宿区は西早稲田にあるキャンパスに丸5年通いました。ところで、昨日(10月10日)は慶応SFC25周年記念のお祝い行事が藤沢キャンパスで開かれたそうで、卒業生の知り合いがFacebookに投稿しているのを見かけたのですが、そのSFC卒業生であるNewsPicksの佐々木編集長がある記事にこんなコメントをしておりました。

二子玉川は、都心からも近くて、便利な場所。ただ、実際に二子玉川を歩いてみると、活気はあるのですが、何かが欠けているなと感じました。まだうまく言語化できていないのですが。。。。。

たとえば、未来を感じさせる、テクノロジーに強い大学があれば、かなり雰囲気が変わるのではないかと(多摩美、学芸大、都立大などが近くにあり、文化・アート系は強そうですので)。慶応のSFCを移転させては?。

■「何かが欠けているニコタマ」
このコメントは、佐々木さんの古巣である東洋経済オンラインが、ここ数日連載した三木谷さんとの単独インタビュー記事をピックした際のものです。なお、今回私が取り上げる話の趣旨と楽天とは関係薄です。楽天がニコタマに本社を移転したのを機に、新しいイノベーションプロジェクトへの展望について語っており、それを東洋経済オンライン側が「楽天X」などとキャッチーなお話にしておりますが、それは今回どうでもいい話。

私としては、佐々木さんがニコタマという街について「何かが欠けている」と見抜き、それが地域に未来性を持たせるエンジンとなる大学の存在感がないと提起する「感性」はさすがだな、と感心させられました。

ニコタマはここ10年ほど、沿線開発で今日のおしゃれな街を築いてきた東急さんが「社運をかけた」再開発に注力しております。具体的には、東側の地区を開発して現在の二子玉川ライズを作っておりました。「クリエイティブな街」のコンセプトを込めているだけに、オフィス棟には、いかにもニューエコノミー系の企業がテナントで入ることが絶対必要条件であり、東急関係者のミッキーへの営業攻勢は相当なものだったと推察されます。楽天社員の皆さんは、英語は勉強させられるわ、特に千葉や埼玉在住の人は品川からさらに遠方に通勤することになるわで、ご愁傷様なわけですが、とまれ東急としてはクリエイティブの街として「企業」という点からネタは確保できたわけです。

しかし「企業」の他にもう一つ、目玉が欲しいところで、知性漂うおしゃれな空間となると、やはりライズ内部もしくは近隣にそれなりの知名度やブランドのある「大学」、それもイノベーター文化のあるところが欲しいところでしょう。

■東急の営業先としてSFCは魅力的
ただ、佐々木さんはご存じないようですが、実はライズ内には東急系の東京都市大学が今年6月にキャンパスを開設はさせてはおります。しかし悲しいかな、世間で全く話題になっておりません。やはり大学の知名度がなく、ニコタマのコンテンツパワーを倍加させていくには物足りないと言えましょう。ライズはまだ開発中の街区があって、今後ほかにも企業なり大学なり東急が営業しているんでしょうけど、SFCはたしかに魅力的です。

SFCの歴史を振り返ると、設立された1990年は、バブル真っ盛りの頃で、都心部の土地が高騰しまくりで、どんどんキャンパスを郊外に移すのが当時の大学経営のトレンドでした。まあ、藤沢の田舎にあったからこそ、学生が勉学に専念できる環境を確保でき、日本の従来の大学教育ではやらなかったような、変人……もといイノベーター養成のための新しい試みをいろいろやれたんだと思いますが、あれから20年たち、ほかの大学でも早稲田の国際教養学部みたいに類似のイノベーターもしくはグローバリスト養成校が増えてきました。

※再開発真っ最中の二子玉川(出典;Wikipedia)
Futakotamagawa-rise
イノベーター養成界隈では、いまや「老舗」となったSFCではございますが、やはり開設から四半世紀も経つと、卒業生の活躍ぶりで大学の教育のあり方が問われるというものです。その点、SFCのOBでもあるMy News Japanの渡邉正裕編集長あたりは手厳しく批評しておりまして、たしかに社会起業家界隈では、駒崎弘樹さんや今村久美さんあたりの有名人をどんどん輩出している一方で、開学当初に想定していたであろう政治やビジネスのリーダー人材となると、40そこそこで党幹部や大臣候補になりそうな若手国会議員が見当たらず、90年代にいち早くパソコン教育をやっていた割にスターIT社長が見当たらないのは、たしかに物足りないのかもしれません(渡邉さんの記事によると、ベンチャー上場は3社だけ)。

■ニコタマなら実社会で揉まれる機会は増える !?
もちろん、この手の記事を書くと、「大学は天才を作るところではない」といったdisりコメントが出てきますが、それは全くその通り。LINEの開発で主要メンバーにして、大学サークルの後輩である舛田淳くんなんか、あいつ早稲田を卒業してなかったような。。。彼なんかまさに実社会で揉まれまくって知見を養ってきたタイプです。ちなみに、LINEのもう一人のスター役員、サマンサタバタ氏は慶応OBですが、三田キャンパスのド本流、経済学部出身。

結局、渡邉さんがSFCを叱咤するのは、まさにそういうLINEみたいな顕著なメガヒット・プロジェクトで同窓が今ひとつ目立っていないことに不満があるんでしょう。意識高っ(汗)

一方で「学際的な知識の融合だけでは問題は解決しない」とも指摘されていますが、本当に一代で成功するような意識高い系の起業家志望学生は、そもそもサイバーエージェントの藤田さんみたいに大学の勉強はそこそこに、企業に潜り込んで働いて実社会で揉まれる経験をしております。たしかに、藤沢の田舎では、OJT、インターン先の企業も限られるわけで、せめてニコタマにキャンパスが移転すれば、都会の実社会の風と良質な生活環境の元での勉学の両立がしやすくなるかもしれません。

なお、忙しくてなかなか読みきれないんですが、SFCの歴史的役割や意義に関しては、私の読売時代の元上司でもある教育記者の中西茂編集委員が下記の本を書いておりますので、ご参考までに。



中西さんは早稲田OBなので客観的に分析されていると思います。近々読む予定。

あと、一応、SFC出身の起業家はこんないます、という本もあるそうなのでご紹介だけ(読んでないけど)。

慶應SFCの起業家たち
宮地 恵美
慶應義塾大学出版会
2013-06-07


しかし、慶應義塾大学出版会が版元というのが自画自賛なような気もしますが、さて。ではでは。

新田 哲史
アゴラ編集長/ソーシャルアナリスト
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