ウィーン市議会選挙(定数100議席)の投開票が11日行われ、その結果(暫定)によると、戦後から今日まで政権を維持してきた与党「社会民主党」が第1党を維持した一方、極右政党「自由党」は前回(2010年)比で得票率を大きく伸ばし第2党に躍進したが、「第1党になり、ホイプル市長を辞任に追い込み、赤の砦ウィーンを奪回する」と選挙戦で宣言してきた、その野望は実現できずに終わった。
▲ウィーン市議会選で大躍進した自由党(中央・シュトラーヒェ党首)=自由党のHPから
ホイプル市長が率いる社民党は得票率約39・5%で前回比で4・8%減だったが、44議席を確保し、政権パートナー「緑の党」(得票率11・6%)の10議席を合わせ、過半数を上回る54議席を確保したことから、第2次「社民党・緑の党」連立政権が樹立される可能性が濃厚となった。
シュトラーヒェ党首が率いる自由党は前回比で5・3%増の約31%の得票率を得、30%大台に初めて達し、第2党となったが、ホイプル市長を辞任させ、ウィーンを奪回するといった“10月革命”は実現できなかった。シュトラーヒェ党首は「社民党を抜くという目標は実現できなかったが、得票率30%を超えたのは党の歴史上初めてのことだ。他党も自由党の躍進を無視できないはずだ」と述べている。
市議会選で最大の敗北者は、ファイマン連邦政権の政権パートナー、保守派政党「国民党」だ。同党は戦後初めて得票率10%以下(約9・2%)に急落し、第4党となり、「緑の党」の後塵を拝することになった。同党のウィーン市ユラツカ党首は同日、選挙戦の敗北の責任を取って辞任表明した。
ウィーン市議会選は先月27日に実施されたオーバーエスターライヒ州(州都リンツ)の議会選と同様、失業対策、停滞する経済問題などは争点とならず、殺到する難民・移民への対応問題が有権者の関心を独占した(「難民問題が選挙戦を独占した結果」2015年9月29日参考)。すなわち、ウィーン市議会選はファイマン連邦政府(社民党と国民党連立政権)の難民対策に対する有権者の信任投票の様相を帯びていた。
そして結果は、難民・移民に対して厳格な規制を求める「自由党」が大躍進する一方、社民党が選挙戦終盤、党員を大動員し、自由党に政権を渡すな、ということで大奮闘、第1党の地位を守った。選挙戦は社民党と自由党の2政党の第一党争いに有権者の関心が集中、国民党、緑の党、今回初めて議席を取った新党「ネオス」(得票率約6・2%、5議席)といった他政党は最後まで苦戦を余儀なくされた。投票率は約74・4%で前回(約67・63%)より高かった。
ちなみに、ウィーン市議会選の動向は隣国ドイツでも関心を呼んできた。大量の難民・移民が北アフリカ・中東諸国から殺到するドイツでは、難民・移民対策が目下、最大の政治課題だ。「世界で最も大きな影響を持つ女性」に選出されたメルケル独首相も11日夜(現地時間)、ウィーンからのニュースが気になって落ち着かなかったのではないか。独週刊誌シュピーゲル電子版は同日、「極右政党、果たせず」という見出しで、自由党が第1党に躍進できなかったことを速報で報じている。
ドイツでは、難民の人道的受入れを基本とするメルケル首相に対し、バイエルン州の与党「キリスト教社会同盟」(CSU)のゼーホーファー党首は難民の無条件受入れ対策を批判したばかりだ。それだけではない。メルケル首相が率いる「キリスト教民主同盟」(CDU)の中でも首相の難民受入れ政策に批判の声が出ている。だから、ウィーン市議会選の動向は決して他人事として受け取ることはできないのだ。「もし、明日選挙が実施された場合」、ウィーン市議会選の結果はドイツでも再現される可能性が高いと受け取られているからだ。
ウィーン市議会選は、社民党が第1党の地位を守って幕を閉じたが、難民・移民対策が最大の政治問題であり、その行方に国民、有権者が懸念を抱いていることを改めて明らかにした。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年10月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。