世界史の教科書では「イギリスは産業革命で工業化し、市民革命で民主主義を実現して自由貿易を推進した」と教わるが、これではイギリスのような小さな島国が、300年以上にわたって世界最大の植民地を支配してきた原因がわからない。
最近のグローバル・ヒストリーではこの因果関係を逆にみて、イギリスは新大陸やアジアから掠奪した富によって財政=軍事国家を築き、その海軍力と経済力で世界を制覇したと考える。
グローバル・ヒストリーの特徴は、ヨーロッパ中心主義の否定である。ヨーロッパが世界の最先進国になったのは、たかだか18世紀以降であり、ポメランツも指摘するように、歴史の大部分では中国が最先進国だった。
ヨーロッパの勃興を可能にした近代世界システムは、つねに中心と周辺の差異によって利潤を生み出すシステムなので、そのフロンティアが消失したとき終わる。非ヨーロッパ圏がシステムに入ってきた今は、その移行期にあるのかもしれない。
かつてはその次に来るのは中国中心の世界秩序だといわれたが、いま多くの人が恐れているのは、遠からず世界最大の宗教になるイスラムの力だ。そして資本のグローバル化に代わって、難民などの「人のグローバル化」が始まるかもしれない。それは平等化という点では悪くないが、今より平和な世界とは限らない。
近代世界システムは、もともと主権国家と矛盾していた。国内ではあるように見えた「至高の権利」は、グローバル化した世界では存在しない。そこでは中世のような「力の論理」がまた支配するようになるかもしれない。憲法を守って平和を祈っていれば平和が守れるというのは、遠い昔話だ。
著者もいうように、われわれが見ているのは近代世界システムの終わりだが、その先に何があるのかはわからない。本書の描く資本主義の歴史は、私の『資本主義の正体』を読んだ人にはおなじみの話が多いだろうが、グローバル・ヒストリーの入門書としてはコンパクトにまとまっている。