株式投資では、普通は、一つの銘柄に集中して投資するものではない。複数の銘柄に分散投資するのである。なぜか。
通常の意味での分散投資の効果を問題にするならば、それは統計の問題であろう。つまり、統計的に、銘柄相互間の価格変動の相関が低くなるように、銘柄の構成にすべきだということである。しかしながら、問題を純粋に統計の問題に還元できるのは、価格変動におけるランダムな要素だけである。
ところで、本質的な論点がある。価格が変動したときに、価値もまた変動したのか、価値は変わらずに、価格だけが変動したのか、その区別ができるのか、価格の変動幅を単なる価格の変動部分と価値の変動部分とに分けられるのか、という基本中の基本の問題があるのである。
もちろん、投資の基本が投資対象の価値分析である以上、できるといわざるを得ない。では、何がランダムなのか。投資対象の本源的な価値の変動は、ランダムではあり得ない。従って、価格変動も、価値変動で説明される限り、ランダムではあり得ない。故に、ランダムなのは、価値変動に基づかない単なる価格変動の部分だけである。
通常の投資理論は、個別銘柄におけるランダムな価格変動要素を最小化しようとする。その極限に、個別銘柄要因を捨象したインデクス運用がある。ところが、全く逆の論理として、市場全体の変動におけるランダムな価格変動部分をこそ最小化すべきではないのか、それが真の投資なのではないか、そうともいえるのである。
個別銘柄におけるランダムな変動は、統計的に管理可能である。しかし、市場全体の変動におけるランダムな変動は、受け入れる以外に仕方のないものである。受け入れたくないのなら、ヘッジするしかない。市場のランダムな価格変動をヘッジして、個別銘柄固有の価値変動で勝負する、これがヘッジファンドである。逆に、個別銘柄固有のランダムな価格変動を分散によって消去したうえで、市場全体の価値変動をとりにいくのがインデクス運用である。
二つを比較する限りは、どうみても、ヘッジファンドのほうが、まともな考え方である。いうまでもなく、中間に、普通の株式運用の考え方があって、そこでは、ランダムな価格変動を受け入れながら、個別銘柄の価値変動での勝負がなされているのである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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