10月のFOMC(アメリカ連邦公開市場委員会)で明白に打ち出されたのはFRB(アメリカ連邦準備理事会)はハトではない、タカのような強い姿勢を見せることもあるのだ、という威嚇でしょうか?
私は数か月前からFRBは利上げに踏み切りたくてしようがない、だけど、そのタイミングがなかなかない、というイラつきを言葉の端々に感じていました。また、FOMCで投票権のある委員あたりからも時々、タカ派的なジャブが飛んでいるのを見て、FRBはFRBとしての能力の高さを利上げすることにすり替えているな、とも感じていました。
今回の声明で注目されるのは雇用はもはや、十分に改善し、あとはインフレ率だけという点であります。これは日本も全く同様でここまでくると毎月発表される雇用統計で20万人のプラスを維持し続けることは困難で15万人とか、10万人台前半でも十分改善しているとみて良いはずです。これは現在の5.1%の失業率に対して健全なる失業率を4.9%と設定しているためです。
ちなみに完全雇用とは何%か、といえば数字としてはゼロ%と思われるかもしれませんが、これは間違いです。大体、学術的には3-5%程度となります。理由は二つあり、一つは一定水準を下回ると賃金の無限大の上昇を招くこと、もう一つは雇用の質が無限大に下がることであります。極端な例で言えば猫の手も借りたいのにその猫に時給2000円を払うような状態になるのです。
よって、日本もアメリカもほぼ、雇用に関しては満足しうる状態にあるのですが、インフレ率が上がりません。その為、日本では金融緩和をさらに推し進めるのではないかという期待の声が、そしてアメリカでは経済は十分に回復路線にあるので利上げしようという真逆の政策を打ち出そうとしているわけです。
この違いはどこにあるのか、と考えるとイエレン議長と黒田総裁はそれぞれ目的が違うのだということに気がつきます。アメリカは金利が健全な水準にあるべきであり、FRBはそれを目指す金融政策を施すという考えでした。よって、前任のバーナンキ議長の時も常にその視線に立っており、経済が一定の体力を回復すればいつでも金利を上げるよ、と警告をし続けていたのです。
ところが黒田総裁は就任当時から目的が「デフレからの脱却」「2%のインフレターゲット」でありました。やろうとしている政策が違うことで当然ながらその金融政策には相違が出てしまうのでしょう。
さて、アメリカで市場関係者の期待を裏切って12月の利上げのオッズ引き上げに貢献したFOMCの声明にやや、戸惑いがあるようにも見えます。「本当かい?」これが本音でしょう。
私はECBが猛烈なプレッシャーをかけるとみてます。ECBのドラギ総裁は既に12月に何らかの検討を行うと発表していますが、「有言実行のマリオ」ですからしかるべき金融緩和を打ち出してくるだろうとみています。その欧州代表団からはIMFも「アメリカは利上げはしないで」とラガルド専務理事あたりの声も聞こえてきます。
これは基軸通貨ドルと最近中国寄りの欧州の微妙な軋みにも見えます。また、中国が着々と金を買っていることにも着目すべきでしょう。いわゆるドルはずしの動きがなんとなく見て取れます。
よってイエレン議長は自国の金融政策だけに着目していると思わぬところから足を引っ張られる可能性があることだけは注意した方がよいように思えます。
では、今日はこのぐらいで。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 10月29日付より