4ヶ月前『「東芝問題」に対し公平公正を期する』というブログの結語で、私は「此の際全ての病巣を摘出すべく、これまでをきちっと清算し総括した上で、再生を目指さねばならない」との指摘を行いました。
ところが新経営体制発足後これからという矢先、東芝子会社である米ウェスチングハウス(以下、WH)の単体赤字を本体側で握り潰していたというスクープ記事が、日経ビジネスオンラインに先週木曜日掲載されました。
これまで東芝は対外的には「ほぼ一貫して原発関連事業は好調だと説明してきた」にも拘らず、当該スクープで「経営不振を続けるWHの処理に苦慮した経営陣が、様々な手法を駆使して本体への飛び火を防いできた姿」が明らかとなったのです。
当の東芝はと言うと、その翌日『午前の取引終了後に「WHは一部部門を減損して計13億ドルを計上した」と発表。報道内容を認め』たようです。そうした中で東芝株は13日一時、前日比9%安の285円と約3年ぶりの安値をつけ、終値で6%安となり日経平均株価の採用225銘柄の中で最も下落率が大きくなりました。
今回発覚した事実からは「企業ぐるみの隠蔽と言わざるを得ない」(東証幹部)もので、『WH社が巨額の減損処理を行っていたことに加えて、それを東芝の連結決算に反映させないための「屁理屈」を、監査法人に受け入れさせることを画策する社内メールの存在も明らかになった』のです。
此の類の領域に明るい弁護士の郷原信郎さんも先週金曜日、御自身のブログで『会計不祥事からの信頼回復を図る東芝に、重大かつ深刻な「説明不足」、というより、実質的な「隠ぺい」があったことが明らかになった』等と述べられていました。
これだけの不祥事でマーケットを欺き続けても尚、未だ以て「不適切会計」といった表現で報じるメディアの姿勢にも大変な問題があると思います。之を粉飾決算と言わずして、何を粉飾決算と言うのでしょうか。
「東芝問題」につき公平公正という観点からは9年前のライブドア事件よりも遥かに悪質だと私には思われ、東芝が「西田厚聰氏、佐々木則夫氏、田中久雄氏の歴代社長3人と、元最高財務責任者(CFO)の村岡富美雄氏、久保誠氏に対し(中略)計3億円の損害賠償を求めて、東京地裁に提訴した」という状況下、粉飾決算という言葉を使わずして当事件を論ずるに大変な違和感を覚えます。
ある経済評論家も指摘する通り、例えば「ソニーは1995年3月期に、89年に買収したコロンビア・ピクチャーズに関して2652億円の減損を行うなど、財務の健全化に取り組んできた歴史がある。つまり、ソニーは減損処理を先送りせず、経営危機に陥るリスクを避けてきた」わけで、これ正に望ましい姿であり当たり前の姿だと思います。
ある投資助言会社のトップ曰く、東芝の「開示が不十分だったのは、何か根が深い問題が隠れているからではと勘繰ってしまう」ということで、証券取引等監視委員会はこれから後東芝を巡る問題に関し更なる徹底究明が要請されます。
そしてまた3ヶ月前『「東芝問題」、次なる論点』というブログの結語では、「日本取引所グループ(JPX)は、早々上場維持が当たり前であるかのように動いてきたわけですが、仮に東芝株が上場廃止を免れるならば、過去事例と照らし合わせて如何なる理由でそうなのか、どういう経緯・根拠で以てその是非が決せられたか、その判断の公平公正の所在は一体何処に求められるか等の類が、誰にも理解できるようJPXとして説明責任を負いきちっとした見解を出すべきでしょう」と私は書きました。
米国における粉飾決算のケースを見てみれば、例えば総合エネルギー会社エンロンは01年10月の不正発覚後02年1月に上場廃止となり(01年12月経営破綻)、長距離通信大手の会社ワールドコムは02年6月の不正発覚後02年7月に上場廃止となりました(02年7月経営破綻)。
このように米国ではきちっとした短期間での対応が見られ、それが株式市場での信用を高めることに繋がっているというわけです。今回東芝のケースで粉飾という言葉も使用せずに上場も維持するといった曖昧な形を続けたらば、海外投資家の誰が日本の株式市場を信じることが出来るでしょうか。
昨今、外国人投資家と話していても「日本のマーケットは大丈夫?と言わざるを得ないよ」といった声が多々あります。関係各者は此の現実を直視し、真摯に耳を傾けるべきです。これまでも述べてきた通り、「信なくんば立たず」(顔淵第十二の七)です。
先々月15日、東証は企業統治などの管理体制に深刻な問題があるとして、投資家に注意を促す「特設注意市場銘柄」に東芝株を指定したばかりですが、日本でも米国の如き厳正なる対応が見られねば、日本資本市場の歴史に多大なる禍根を残すことになると思います。
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