「パリ同時テロ」事件以後、欧州全土でテロに対する不安を抱く国民が増えてきた。同時に、大規模なイベント、コンサート、サッカー試合などがキャンセルされる一方、欧州へ旅行する観光客が減少してきている。
▲欧州最大のクリスマス市場の風景(ウィーン市庁舎前広場、2015年11月13日、撮影)
ウィーンで13日夜、欧州最大規模のクリスマス・マルクト(市場)がオープンされ、翌日の14日はホイプル・ウィーン市長の挨拶後、市庁舎前広場に飾られたチロル州から運び込まれたクリスマスツリー(高さ28m、樹齢110年の松)がライト・アップされる予定だったが中止された。その理由は公表されていないが、前日の「パリ同時テロ」事件が理由であることは間違いない。犠牲者を追悼するとともに、テロへの不安を感じる市民たちを配慮した決定だろう。「パリ同時テロ」の首謀、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)は欧州全土でテロを予告しているからだ。
クリスマス市場では子供連れの夫婦や若いカップルが市庁舎前広場に並ぶ店のスタンドを覗きながら、シナモンの香りを放つクーヘンやツリーの飾物を買ったり、クリスマス市場で欠かせない飲物プンシュ(ワインやラム酒に砂糖やシナモンを混ぜて暖かくした飲み物)を飲んでいる。クリスマス風景は今年も同じだが、訪れる市民の顔には一抹の不安が感じられる。
「パリ同時テロ」事件は7カ所で発生した。最大の犠牲者を出したバタクラン劇場、パリ近郊のサッカー競技場(Stade de France)、レストランなど治安関係者が恐れる“ソフトターゲット”だ。特定の相手、施設を狙ったテロではなく、一般の娯楽施設、市民が集まる施設だ。それだけに、治安関係者にとって警備が難しい。テロリストはその弱点をついたわけだ。
17日に独ハノーバー市で予定されていたサッカー親善試合、ドイツ対オランダ戦は開始直前、爆弾が仕掛けられた危険性がある、という外国治安情報筋からの警告を受け、キャンセルされたばかりだ。欧州各地でイベントが次々とキャンセルされている。テロへの不安がその理由だ。不安を煽ることがテロリストの目的とすれば、彼らの狙いは成功しているわけだ。
世界に約12億人の信者を有するローマ・カトリック教会総本山、バチカンでもパリ同時テロ事件の影響から、18日のサンピエトロ広場の一般謁見に集まった信者の数が明らかに少なかったという(バチカン放送)。ちなみに、「イスラム国」はバチカンとローマ法王を襲撃リストに挙げ、警告している。
欧州の政治家の中には、「テロリストがわれわれの日常生活を乱すことを容認してはならない。自由な社会を標榜するわれわれの価値観を失ってはならない」として、「テロリストへの不安に負けるな」と檄を飛ばす声も聞かれる。
少々脱線するが、一般国民はテロに対して不安を感じるが、テロを実行するテロリストも決して平静心で実行しているわけではない。パリに潜伏していたテロ容疑者のアパートを捜査した警察関係者は使用済みの注射針を見つけている。容疑者たちが麻薬を摂取していた可能性があるという。
オーストリア日刊紙プレッセ(11月17日付)は「人がどうして大量殺害を実行し、自身も最後は破滅させることができるのか」というテーマを提示し、その答えは麻薬の影響と指摘している。その麻薬は“Captagon”(カプタゴン)と呼ばれ、一般ではフェネタリン(Fenethylin)という神経刺激薬だ。サウジアラビアでよく利用されている麻薬だ。
ISの戦闘員が麻薬を取っていることはよく知られている。米軍兵士も不安を排除し、戦闘意欲を高めるためにある種の薬を摂取することは知られている。「パリ同時テロ」を実行した容疑者たちもCaptagonをヘロインとミックスして摂取し、“ハイの状況”(異常に高揚した心理状況)でテロを繰り返したのではないかというのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年11月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。