テロのない未来を作るために --- 畑 恵

パリ同時テロで妻を失った仏人ジャーナリスト、アントワーヌ・レリスさんがFacebook上に綴った文章 “Vous n’aurez pas ma haine(君たちは僕の憎しみを手に入れることはできない)” が、世界中に共感の輪を広げています。

彼は、コンサートホール「ル・バタクラン」で起きたテロで、最愛の妻エレンさんを失いました。しかしそれでもなお、テロリストを憎むことはないし、さらに幼くして母親を奪われることとなった自分の息子さんにも憎ませないと宣言しています。

文末にレリスさんの文章の全文和訳を引用させていただきましたが、一読すれば、彼が決して優等生的なセンチメンタリズムで「テロリストを憎まない」と言っ ているのではなく、テロとの闘争に真の勝利をおさめるために全力で“闘っている”ことが、お分かりいただけると思います。

憎悪と恐怖、怒りと懐疑に心を支配され、自由と安寧を失うことこそがテロに“負ける”こと。レリスさんはそう明確に認識し、亡き妻や残された息子さんの尊厳を守るためにも、心に平和と自由の砦を築くべく闘われているのだと思います。

武器で守るべきものと、武器では守り得ないもの。武器で奪えるものと、武器では奪い得ないものが、この世に存在することを、レリスさんの言葉は教えてくれます。

テロとの闘いは、とても複雑です。

テロを殲滅するには、テロが生まれる構造的問題や、歴史的プロセス、空爆で犠牲になる一般住民のことになど目を向けていてはいけないという空気感が、今、日本でも急速に増幅されつつあるように感じます。

毅然たる態度でテロに対峙することと、様々な立場の人々の痛みに思いをいたすこと。その両立ができなければ、テロとの闘争に果ては無いのでしょう。

テロが起きない未来を作るために、今、大人である私たちは子どもたちに何を伝えるべきか―

レリスさんの尊いメッセージから学ばせていただけたことに心から感謝するとともに、あらためて犠牲になられた方々に対し心より哀悼の意を表します。

“あなたたちは私の憎しみを得ることはできない”
アントワンヌ・レリス
「金 曜の夜、あなたたちは私にとってかけがえのない存在であり、人生の最愛の人である、私の息子の母親の命を奪ったが、あなたたちは私の憎しみを得ることはで きない。あなたたちが誰なのかは知らないし、知りたくもないが、あなたちの魂が死んでいることはわかる。あなたたちが盲信的にその名の下に殺戮を行ってい る神が、人間をその姿に似せて作ったのだとしたら、私の妻の体の中の銃弾のひとつひとつが彼の心の傷となるだろう。

だから、私はあなた たちに憎しみという贈り物をしない。もっともあなたたちはそのことを望んだのだろうが、憎しみに対して怒りで応えることは、今のあなたたちを作り上げた無 知に屈することを意味する。あなたたちは私が恐怖におののき、同じ街に住む人々に疑いの目を向け、安全のために自由を差し出すことを望んでいるのだろう。 あなたたちの負けだ。何度やっても同じだ。

私は今朝、彼女に会った。ようやく、何日も幾夜も待った後に。彼女はその金曜の夜に家を出た 時と同じように美しかった。12年以上も前に狂うように恋に落ちた時と同じように美しかった。もちろん、私は悲しみに打ちひしがれている。あなたたちのこ の小さな勝利は認めるが、それも長くは続かない。彼女はこれからも毎日私たちと一緒にいるし、私たちはあなたたちが永遠に入ることのできない自由な魂の楽 園で再会するだろう。

私と息子はたった二人になったが、それでも世界の全ての軍隊よりも強い。それに私はこれ以上、あなたたちに費やす時 間はない。そろそろ昼寝から起きてくるメルヴィルのところに行かないといけない。彼はまだ17ヶ月で、これからいつものようにおやつを食べて、いつものよ うに一緒に遊びに行く。この小さな男の子はこれからの一生の間、自らが幸せで自由でいることによって、あなたたちに立ち向かうだろう。なぜなら、そう、あ なたたちは彼の憎しみを得ることもできないからだ。」

Post Original : Antoine Leiris, “Vous n’aurez pas ma haine”, 2015/11/16 21:18,
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畑恵
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