一連の国際会議で中国のポジションに感じること

クアラルンプールで開催されていた東アジア首脳会議。焦点は南シナ海をめぐる中国対日米に東南アジア諸国の微妙なスタンスという三者の主張が入り乱れよくわからない形となりました。この会議に出席していた中国の李克強首相は習近平国家主席の名代としてこの圧力をいかに交わすか、矢面に立たされていましたが日米をよそ者扱いにして東南アジア諸国の微妙な心理を突いてなんとなくうまくやりぬけたようです。

このところの外交を見ていると習近平国家主席にスポットライトが当たらなくなったように感じます。トルコのG20にしてもフィリピンのAPECにしても習氏は出席していますが、周りの中の一人に埋没しています。一時は破竹の勢いで習近平国家体制を作り上げていたのですが、その勢いに息切れ感があるように思えます。

個人的に感じるのは氏がアメリカ訪問の際、オバマ大統領との確執が明白になった頃から歯車が狂っていているように思えます。それまでは強気の発言が続き、取り巻きもそれにあやかるように刺激的な発言を繰り返していました。

中国が南沙諸島の島を埋め立てて空港を作り、領土として確保しようと考えた根本的理由は何かと言えば中国海軍の太平洋のルートの確保とされます。同国にとって三方は陸地となっている以上、東と南のシナ海への「出口」は戦術上重要なオプションとなります。これは既に皆さんも周知のはずです。では、もう一歩考えを進めるとなぜ、この地域で戦争も騒擾も起きていないのにほとんど論理性のない埋め立てと空港の建設を強行しているのか、と考えると私には一つしか理由が浮かび上がってきません。

それは習近平氏が中国の軍である人民解放軍を自分側に取り込むための作戦である、というに見えるのです。同時に南シナ海の中国の覇権は人民解放軍からの支持を得るためには絶対に引けない点でもあるとみています。

つまり、習近平氏が延々とやり続けている国内権力闘争の一環でしかないのではないでしょうか?習氏は自身の基盤を固めるため、人民解放軍のキーパーソンも入れ替え、習氏のグループで固める動きを進めています。人民解放軍のトップは「上将」38名とされますが、このメンバーを習氏は入れ替え続け、今ではその過半数を占めています。

ところが人民を開放する軍は誰のためにあるのか、というイデオロギー論争になると習近平氏のような「紅二代」と称する親の地盤を引き継いだ人が必ずしもポピュラーとは限りません。人民解放軍の数は正確には分かりませんが、230万人程度の現役兵と50万人規模の予備兵がいるとされています。極めて大きな組織に習氏の意向をしっかり伝え、つなぎとめるためにはエネルギーのベクトルを変え、発散場所を提供する必要があったとしたらどうでしょうか?

ご承知の通り中国の国家統制の中で民族問題は最大の懸案の一つであります。その問題が起きた時それを押さえるのは軍部であります。また、近隣諸国とのパワーゲームをする際にも軍事力は見せつけるだけで十分な抑止力にもなりますが、自国に有利な展開を進めることが出来る重要なカードでもあります。

よって中国の安定した統一感を維持させるためには人民解放軍の完全なる支配が習近平体制の安定基盤の絶対条件であります。ところがこの関係は蜜月ではなく、むしろぎくしゃくしたものではないかとかつて報道されていたこともあります。だからこそ、無理な南沙での空港建設を推し進めたとすれば辻褄は合いそうです。

ところが思わぬアメリカからの反撃、そして、外交的に中国への冷たい視線が増えてきた中で習近平プランがとん挫している、これがこのところの氏の存在感の薄さではないかと感じるのです。

習近平体制としては案件が多すぎ、一人の指導者に権力を集中させてもこなせるような分量ではありません。氏の一挙手一投足ではもはや完全なオーバーフロー状態に見えます。一番怖いのは体制が一点集中型になっているが故にどこかで「プログラムミス」が生じた時、その衝撃は激しいものになります。中国のみならず、中国を取り巻く国家は大いに留意すべき点ではないでしょうか?

これが最近の習近平氏の顔色がなんとなく冴えない気がする理由かもしれません。

では、今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 11月23日付より