世界不和が生み出す不況の足音

ロシアが占拠したクリミアで何者かが同地への電力供給線を破壊したニュースが流れていました。記事では、これで再びロシアとウクライナに緊張感が出るだろうと解説されていました。私は、確かにウクライナの嫌がらせと考えやすいものの、ロシアはイスラム国、ISも敵に回しており、ISがそれを行ってもおかしくはないだろう、と考えればまだその犯人とその目的を絞り込むのは早そうな気がします。

西アフリカのマリの首都、バマコで起きた外資系高級ホテル、ラディソン ブルでの襲撃事件。死者は19名に及ぶとされ、解放されるかどうかはコーランを暗記していたかどうかだったと一部の報道がありました。それが本当なら敬虔なるイスラム教徒でなければ殺されるという話です。これを新たなる宗教戦争と言わず何と言いましょうか?

911以降、イスラムの原理主義者や過激派の行動は普通のイスラム教徒とは隔離され別物である、という認識が生まれつつありました。事実、私もここ、カナダでイスラム教徒の方とはビジネスなどで接しているほか、住んでいるコンドミニアムにもたくさんいらっしゃるし、ごく普通の良い方ばかりであります。よって、宗教戦争などとは思ってはいけないのですが、思想犯は顔や普段の態度から想像つかないことが起きるということ見せつけてしまいました。

昔、日本で学生運動が高じて過激派が日本全体を震撼させました。よど号ハイジャック事件、あさま山荘事件、ダッカ日航機ハイジャック事件などその数はメジャーなものだけでも十数件はあるでしょう。その過激派の発生を辿ると日本共産党、企業の組合組織、学生などが一体となり、大きく国に影響力を与えたものの60年安保が終わってから学生運動は急速に分裂、解体し、企業は学生運動との連携を避けるようになりました。残された学生は思想的頓挫、更には組織的分裂に見舞われた後、原理思想に基づく、自己都合の論理を振りかざしました。

これが時間と共にそれなりに収まっていった理由は日本政府が必死の努力をしたこと、大半の日本人が批判的態度を取ったこと、支持層の学生が少なくなり、組織としての成長を遂げることが出来なかったことが挙げられましょう。

ISと日本の過激派を同じ舞台に上げるのはどうかとは思いますが、同じ原理主義という点であえて比較してみます。今回のISにしろイスラムの過激派の行動にしろ、解決させようと努力しているイスラム圏の動きが見られません。多くはキリスト圏の国家が頭から押さえつける形でその更なる拡大を制御しようとしています。が、これでは根本的に収拾できないと考えるべきでしょう。なぜなら他宗教の人間が「武器には武器を」の発想で戦いを挑んでいるからであります。

本来であればイスラム教徒が過激派の行動を恥だと考え、それを批判し、論破すべきであります。いや、それは行われているがゆえに結局、派閥が出来てしまったともいえます。だとすれば今のイスラム過激派の行動は本来であればイスラム教徒内での宗教戦争であり、かつてフランスがキリスト教徒同士の宗教戦争に巻き込まれ長い年月、革命と戦い続けたのと同様のことを繰り返すというのでしょうか?更に不都合なことにイスラム過激派は今回のパリの事件のように非イスラム教徒に対して無差別攻撃することを当然のこととしています。まさにカルトの世界だと言って良いでしょう。

観光立国フランスが抱え込んだこの問題はとてつもない損失となる気がします。フランスのサービス業対象のPMI(購買担当者指数)は10月の52.7から11月に51.3に下げています。最近、私の周りで話しているだけでも誰もパリには行きたくないと言います。フランス料理は東京でも美味しいところがいくらでもあるし、凱旋門はいつ行ってもあるから今じゃなくてよい、と思われてしまえば経済はシュリンクします。

事件は起きていませんが、ベルギーはイスラム系過激派組織が以前から多く、拠点があるとされてきました。今回も同様です。同国の二重社会性、つまりフランス語圏とオランダ語圏という目に見えない裂け目はそういう組織が入り込みやすくさせるのでしょうか。それを考えればスイスもここ、カナダも危ないことになります。事実、アメリカでのテロ犯罪者がカナダから入国するという話は何度となく起きています。

これが世界のあちらこちらでこうも頻繁に起きるようになれば人は動きにくくなります。企業はその投資を控えるでしょう。よりブロック化された経済を作りかねません。意図しなくてもそうなりかねない、そんな傾向が出ないとも限りません。特にアジアはTPP発効も控え、域内経済圏を意識するでしょう。その時、域外との差が広がらないとはいえないでしょう。

実に頭が痛い話だと思います。日本人の旅行意識は「近くて安い」から「近くて安全な」国内旅行にとって代わられるのでしょうか?

では、今日はこのあたりで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 11月24日付より