2016年のアメリカ経済

12月16日、アメリカの定例金融政策会議であるFOMCにてイエレン議長は利上げ発表をする可能性が大であります。彼女にとってこの一年、いやFRBの議長に就任以来最大の決定であり、これで胸のつかえも取れ、クリスマスにほっと一息つくひと時を愉しめるだろうと信じているはずです。私もタイミング的に今しかない、と思っています。

アメリカの金融政策は今まで利下げ、更には量的緩和という集中治療室での処方を終え、一般病棟で退院の日を待ち続けてきました。その間、経済の体力は心地よく回復し、労働市場だけ見ればU3の失業率は目標を十分に達成したと思います。

FOMCの金融政策会議に於いてその方向転換をする大きな決め事は節目の会議開催時になりやすいのは政策発表後その説明会見が議長から直接行われるためです。12月はその節目にあたり、どういう決定がなされても会見は行われます。利上げを問う議論が約2週間後に行われますが、経済だけ見れば世界全体像はさほど揺れ動いていません。

ならば、利上げの決定をしない方がおかしいと逆に反発が出てくるぐらいでしょう。ここはもう、既定路線とみて良いかと思います。

しかし、2016年がそのベクトルをそのまま伸ばしていく形になるかどうかは議論があるところです。イエレン議長はゆっくりとした利上げペースと述べています。私は25ベーシス(0.25%)ずつ上げるという刻みを0.1%とか0.15%といった流動性を持たせればよいと思いますが、市場はあくまでも0.25%刻みを想定しており、2016年を通して3.-4回ぐらい上がるのではないか、と見られています。

これには大きな前提があり、2016年を通じて経済の逆風が吹かなければ、ということがあまり表面には出てきません。労働専門のイエレン議長が若干気にしているのは失業率は下がれども賃金が十分に上がってこない、ということでしょうか?そんな中、イエレン議長の大先輩であるアラン グリーンスパン元議長が日経のインタビューでアメリカ経済が停滞状態に陥ると、警告しています。

「社会保障の給付が増え、(企業の)貯蓄率を押し下げている。そのせいで設備投資に回る資金が減り、生産性の伸びが鈍ってしまった。にもかかわらず与野党の党派対立が続き、有効な対策を打てないのは問題」「100年に一度の金融危機に見舞われ、設備投資のリスクを避けようとする企業は確かに増えた。株主への配当や自社株買いを優先する企業もある」としています。

カナダを含む北米に於いて企業はコスト低減努力を十分に行ってこなかったと思っています。私が知る30数年間のアメリカは本質的にずっと同じだったと思います。コスト増は最終価格に転嫁する非常に簡単なビジネスモデル、市場を制する発想であるM&Aなどを通じた規模の追求、更に金融政策でそれを後押しする「古い経済支配体質」をずっと続けてきたきました。

ところがそのモデルにどっぷりつかった方々もいよいよ世代交代を迎え、アメリカが本当に製造業で努力や改良をしてアジア諸国に戦いを挑むとしても既に3周遅れぐらいになってしまった感があります。北米で長年ビジネスをしているこんな私でも一定の成果が挙げられるのは一旦軌道に乗ってさえしまえば改善効果を打ち出せる日本人にとっては非常においしいビジネス環境があるからでしょう。

もちろん、アメリカが没落するとは思いません。ですが、経済成長率は長期低迷するかもしれないグリーンスパン議長の懸念は大いに頷ける点があります。イエレン議長は12月に金利のスイッチをオンにし、今後はFOMCのどの政策会議の時でも利上げができる自由度が出来るかもしれません。しかし、かつてのような連続利上げ技が再び出来るとはにわかには信じ難いと言わざるを得ません。

世の中、人により、得手不得手があります。アメリカ人は如何に楽をするかという発明をすることに長けています。機械を大型にして一気に仕事をやっつけるというのはお手のものでしょう。建物を建てさせれば躯体はどんどん上がるし、如何にもさすが、と思わせますが細かい仕事は全く駄目です。最後の仕上げの仕事はアジア人が圧倒的にその品質、手さばき、効率、クレームの少なさに於いて勝っています。

こう考えるとアメリカがアメリカであり続けるには次々と世界のスタンダードを変えるような影響力を出し続けるアイディアこそが成長の源泉である気がします。これが利上げが続けられるのキーではないでしょうか?

さもなければ石油価格が暴騰するとか、ドルが暴落するといったネガティブインパクトによりファンダメンタルズが狂ったときぐらいではないかと思います。

では、今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 12月2日付より