いかがわしい選挙違反の捜査方法

新田編集長が取り上げていた中学生の文章を読んで15年前に書いた拙文を思い出したので再掲する(多少加筆修正あり)。

選挙が近づくと決まって「警察が選挙違反取締り本部を設置した」というニュースが流される。そのニュースを見る度に「選挙は警察の点数稼ぎのためにあるのではないのに」と、いやな気分にさせられる。明るい選挙をいうのであれば選挙運動をもっと自由にして警察はしゃしゃり出ないほうがいい。

日本の選挙法はあまりに瑣末な規定が多いので、選挙法に精通したプロがいなければ選挙違反に問われること必定。しかもその摘発はしばしば恣意的、政治的に行われる。野党には厳しく、当選議員より落選議員に厳しいという評が多い。個別訪問が摘発されたのは共産党だけという明白な実績(?)もある。
そもそも戸別訪問の禁止は運動員のフットワークで共産党や公明党に劣る自民党の利益のために設けられたとする説が有力だ。

今はどうか知らないが昔は選挙が始まるとネオン街から客足が減ると言われたものだ。私服刑事が徘徊し饗応捜査のため客の会話に聞き耳を立てているので、楽しめないからだ。

買収、饗応等の選挙違反は通常物証が乏しいので自白を引き出すため様々な詐術的手法が取られる。「(買収、饗応の)相手の某はもう吐いたぞ」のウソで引っ掛ける古典的手法はかわいいほうで、刑事を一般犯罪者に化けさせて雑居房に送り込み選挙違反容疑者からそれとなく聞き出すやり方もある。

選挙違反の摘発がいかに恣意的に行なわれているかの具体例。
島根県の竹下登が初めて衆議院選挙に出たとき、多数の選挙違反者を出した。これは彼の支持層が青年団を中心とする若い層が中心で国政選挙に不慣れなこともあったが、それより大きかったのは旧内務省の高官として警察に強い影響力があった同じ選挙区の大橋武夫の指示によったものと地元では信じられている。二人はそれ以後仇敵の間柄となったのだからこの風評の信憑性は高いと思われる。
戦前政権党が代わると地方の警察署長まで代わり、選挙時には野党候補の選挙違反だけ狙い撃ちにした伝統(?)の名残か。

私が候補者なら敵陣営にスパイを送り込みわざと選挙違反をさせるだろう。

本題からそれるが最近大流行の「死体遺棄」を罪名とする逮捕について。
死体遺棄罪が単独で成り立つのは、死亡の届けと埋葬の義務を負う親族以外には考えられない。従って通常死体を遺棄するものは殺人者に決まっている。それを先ず死体遺棄罪で逮捕し、次に本件の殺人罪で再逮捕する捜査手法が大流行だ。これは自白を引き出すため拘留期間を長くする手法である。違法ではないがフェアとは言えない。

こうした警察の手法への批判を新聞テレビでお目にかかったことがない。理由は2つあって警察を怒らせるとその後の取材に差障りがあるという配慮、もう1つはサツ回りの記者に憲法や刑事訴訟法の知識が乏しいこと。

そもそも日本の刑事司法では逮捕が自白を引き出すための手段に堕している。警察は「容疑者」を逮捕することによって社会的名誉を傷つけることができる。「有罪確定までは無罪と推定される」刑事手続きの原則は実態とは大違いで有罪率が99%以上の日本では逮捕されただけで強い有罪推定を受ける。万一無罪判決が確定しても検察警察は概ね目的は達したことになる。ロッキード事件で田中角栄が逮捕されたことは覚えている人も有罪が確定したかどうか即答できる人は少ない。

青木亮

英語中国語翻訳者