ローンウルフによる「テロの脅威」 --- 長谷川 良

オバマ米大統領は6日、国民向けTV演説の中で、カリフォルニア州サンバーナディーノで起きた銃乱射テロリストに対し「どの組織、グループにも所属していない一匹狼的な存在、ローンウルフによるものだった」と強調した。

130人の犠牲者を出した「パリ同時テロ」(11月13日)はソフトターゲットを狙った欧州初の同時テロ事件だったが、14人の犠牲者を出した今回の米乱射テロ事件(12月2日)はローンウルフによるテロとして注目を呼んでいる。

欧米治安関係者は、「両者とも対策が非常に難しいテロだ」として頭を痛めている。前者は特定の対象ではなく、国民が集まる無数の遊技場やスポーツ競技場、コンサート施設がテロ対象となるため、警備が難しいこと、後者はどのテロ組織にも所属していないテロリストによるテロ事件だけに、事前に監視が出来ないからだ。

ところで、ローンウルフ(一匹狼)はどこにでもいる。会社という組織の中でもローンウルフはいる。社交性はなく、自分の世界の中で生きている。学校にもローンウルフ的な存在がいるだろう。彼らは自分の職務、義務を履行するが他の同僚、他の生徒たちとの交流は乏しく、自分の世界に閉じこもって生きている。

ただし、厳密にいえば、一匹狼もどこかに所属している。米乱射テロ事件の犯人夫婦も会ったこともないイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の指導者に共鳴し、忠誠を誓っていたという。2人はシリアやイラクでISの指導を直接受けていないが、ISへ所属意識、帰属意識があったことを裏付けている。

社会学者は人間を関係存在と定義する。他者との関係の中で人間は、喜び、悲しみ、苦しみを体験しながら成長している存在だという意味だ。出生してから一人前に成長するまで一人で生きてきた人間はいないだろう。家庭、学校、会社といった組織の中で生きている。米国の犯人夫婦も同じだろう。働き、家庭を持ち、子供を産んでいる。彼らは少なくとも家庭という最も小単位の組織に帰属してはずだ。

ここで問題となるのは、組織に所属しながら、帰属意識の無い人々が増えてきていることだ。家庭で生活しながら、孤独を感じ、学校、会社の中でも溶け込めない人がいる。外的には組織に所属しながら、精神的にはその組織に帰属できない人が現代のローンウルフの特長ではないか。ただし、忘れてならないことは、彼ら(現代のローンウルフ)も心が安らぐ組織、グループに帰属したいという願望を捨てきれずに苦悩していることだ。

現代のローンウルフは様々な方法で自分に帰属意識を与えてくれる対象、組織、グループを模索する。その際、インターネットが力を発揮する。米テロ事件の夫婦に帰属意識を与えてくれた組織が不幸にもISだったわけだ。米夫婦はISに具体的に接触がないゆえに、その対象を神聖化し、英雄視しやすかったはずだ。

米乱射テロ事件は、ローンウルフによるテロ事件が今後増えてくることを予感させる。欧米治安関係者はシリアやイラク紛争に参戦し、帰国したメンバーの監視を強化してきたが、テロ対策としてはもはや十分とはいえなくなった。オバマ大統領の「テロリストの脅威が新たな段階に入った」という発言は正しいわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年12月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。