アメリカ大統領選挙の共和党の候補として、ドナルド・トランプがトップを走っています。彼はすごいお金持ちで、「イスラム教徒の入国を禁止しろ」など過激な発言を繰り返し、大衆には受けていますが、メディアからはポピュリストと批判されています。
ポピュリズムというのは「大衆迎合主義」などと訳しますが、無知な大衆の感情に迎合して無責任な政策を打ち出すことです。多くの人々は、ふだんは政治のことなんか考えていないので、イスラム教徒がテロを起こしたらイスラム教徒がみんな犯罪者だと思ってしまいます。その感情におもねって発言すると、選挙で勝てるわけです。
同じような現象が、フランスの地方選挙でも起こっています。「イスラム移民を排除しろ」というマリーヌ・ルペン党首のひきいる国民戦線が、30%近い得票率で第1位になりました。最終結果は第2回投票をみないとわかりませんが、2017年に予定されている大統領選挙の予想でも、ルペンが最有力とされています。
国民戦線はマリーヌの父親が創立し、もとは「反ユダヤ」を主張していたのですが、最近の「イスラム国」の犯罪をきっかけに、180度さかさまの「反イスラム」になりました。思想とかイデオロギーはなく、そのとき大衆のきらうものをたたくことで人気をえるのが、ポピュリズムの特徴です。
イギリスでも、労働党の党首になったジェレミー・コービンは、保守党政権が民営化した鉄道などをふたたび国営化し、高所得者への課税を強化し、核兵器を一方的に放棄することなどを政策に掲げ、「イスラム国」に対する空爆もやめるべきだと主張しています。
日本でも安倍政権は、公明党の要求に屈して1兆円以上の大幅な軽減税率を導入する方針を決めました。これで税制が大混乱になることは確実ですが、低所得者の負担が軽くなる効果はほとんどありません。経済学者はみんな反対していますが、来年の参議院選挙で創価学会婦人部の集票パワーのほしい安倍首相は、ポピュリズム路線をとったわけです。
ポピュリズムとデモクラシーは、どこが違うのでしょうか? 実はデモクラシーということばは、正確に訳すと大衆による支配だから、その意味はポピュリズムとほとんど違いません。歴史上は「デモクラシー」がいい意味で使われたことは少なく、「衆愚政治」と訳されることも多かったのです。
その意味で世界の政治は、マスコミによって多くの大衆が「政治参加」するようになり、本来の意味でのデモクラシー=ポピュリズムに近づいてきたのかもしれません。それは必ずしも悪いことともいえません。その結果、テロが激化しても財政が破綻しても「われわれの選択の結果だ」とあきらめることができるからです。