一億総活躍と情報通信の利活用

一億総活躍国民会議が、11月26日に、緊急対策を発表した。しかし、日本経済新聞が「道筋も財源も不透明」と批判したように、評判は芳しくない。これからの社会に情報通信の利活用は不可欠だが、緊急対策はそれを意識しているだろうか。少し時間が過ぎたが、この観点で読み直してみた。

緊急対策では、情報通信が五つの文脈に現れる。最も具体的なのはデータヘルスの推進。医療ビッグデータ解析を元に、生活習慣病の予防など健康寿命の延伸に向けた取組を推進すると書かれている。増加の一途をたどる医療費の抑制は、まさに、国家目標の一つになっている。高等教育に関連して、マイナンバーを活用する「所得連動返還型奨学金制度」の導入に向けて取り組むというのも、具体的な施策である。マイナンバーの利用範囲拡大を歓迎する。

地方自治体でのIT戦略推進人材(CIOなど)育成となると、よくわからない。ITを活用した業務改革が不可欠であることは同意するが、CIOを設置できるのは大中自治体に限られ、小規模自治体では財政的に困難である。「地方自治の本旨」という規範に基づいて、CIOを各自治体に配置しようというのだろうか。それよりも、自治体が連合して業務システムをクラウド上に構築するといった具体的対策のほうが効果は高い。「IoT 等の先端技術の産業化、モバイルの競争促進、サイバーセキュリティ対策を推進」に至っては、政策キーワードを列挙したとしか思えない。今後の政策検討を待ちたい。

もっとも具体性が乏しいは、「テレワークやフレックスタイム制などによる多様で柔軟な働き方を推進」という表現である。「夢をつむぐ子育て支援」と「安心につながる社会保障」の二か所に出てくるので重点施策のようだが、どうするつもりだろう。テレワークは1980年代からの用語であって、e-JAPAN戦略にも繰り返し書かれてきた。たとえば、『重点計画-2002』には、「(情報通信は)テレワークなどの雇用形態の多様化をもたらし、労使双方の選択肢を増やす。」とあった。未だに推進ということは、まだ浸透していないわけだが、どうしてか。これを考えなくては先に進めない。

先日、ハフポストに『情報通信を地域活性化に利用しよう』という記事を投稿した。そこに書いたように、テレワークも含め、地域活性化には具体的な方策がいくつもある。国民会議で検討していただきたい。情報通信政策フォーラム(ICPF)では、クラウドワークスの吉田浩一郎代表取締役をお招きして、12月18日に関連するセミナーを開催する。

山田 肇(東洋大学経済学部教授)