流動性の低い資産にこそ魅力がある

投資において、流動性とは、即時に適正な価格で売却できることである。投資におけるリスク管理の前提として、売却可能性は重要である。故に、それは、一つの利点である。


投資というか、広く金融の世界では、利点を得るには、必ず対価を払わねばならない。対価を払うということは、流動性のある資産は、流動性の対価分だけ、割高でなければならない。つまり、その分、期待リターンが低くなければならない。

具体的には、流動性の高い資産は、一般に、発行総額の大きい優良な資産ということだから、国債等や、一流大企業の発行する債券や株式であり、逆に、流動性の低い資産は、全てのプライベートな仕組みの資産、小型株、低格付社債などである。

理屈上、流動性の高いものが割高なら、流動性の低いものは割安である。つまり、流動性が誰かの費用ならば、流動性は別の誰かの利益でなければならないのである。

投資家として、流動性を必要としないのであれば、あるいは、流動性を必要としない仕組みを作ることができるのであれば、割安なものに投資できる、いいかえれば、流動性を好む他の投資家の制約を、自己の利益に換えられるということである。

では、流動性を必要としない条件とは何か。

まず、保有している資産の価値の毀損を回避する目的の売却については、そもそも、投資の基本動作として、投資段階における銘柄の徹底分析と厳選が決め手である。流動性のない割安な資産に、吟味厳選のうえ、長期投資することは、まさに投資の王道であろう。

資産は保有するのが原則なのだ。資産はキャッシュフローを創出する仕組みである。資産の売却可能性が問題なのではなくて、資産のキャッシュフロー創出力が問題なのである。売る必要のない資産、というよりも、売りたくない資産を、見つけ、磨き、末永く保有すること、これが投資の本質である。

では、現金の払出しのための売却についてはどうか。そもそもが、資産を売却してまで現金を払出す仕組みになっているのなら、投資しないほうがよかろう。普通は、年金資産の運用において、利息配当金等の収入と掛金の合計値が給付に一致するように設計されているように、利息配当金等が流動性なのであって、売却可能性としての流動性など、必要ないのだ。

これに対して、流動性を求める投資家というのは、主に、資本規制を強く受ける銀行等の金融機関である。ここでは、価格変動による評価損の発生が資本の控除項目となり、保有資産の削減に帰結するが故に、売却可能性が重視されるのである。つまり、銀行等の金融機関の投資制約が、一般の投資家にとって、割安な資産を生み出しているのである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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