地方創生のためには、「地方と都市がつながること」と主張しました。
今日は、地方の消滅について考えてみます。結論として、日本という一国全体でみると、地方消滅(その反義としての東京の一極集中)は、感情的には寂しいことですがメリットがあります。
1.地方は都市に吸い込まれる?
地方が東京圏とつながると,地方は恩恵を受けて豊かになりますが,たしかに消滅する可能性もあります。
都市経済圏との一体化は、地方を消滅させる、あるいは地方と都市の格差を拡大する(あるいは固定化しうる)という見方も経済学者にはあります。代表的なものでは,ウォーラーステインの世界システム論,ミュルダールの累積的因果関係,ハーシュマンの分極効果などです。
簡単にまとめると,
1)地方は産業基盤が弱いので常に都市からの財やサービスを購入しつづける。
2)地方の優秀な人材が都市の大学に進学する,就職して帰ってこない。
3)人が移動する→産業が衰退する→町に活気がない→さらに人が来ないという因果関係が累積的に繰り返される。
ということがあげられます。具体的には,東京湾にアクアラインができて木更津がさびれた,つくばエクスプレスができて秋葉原ばかりが得をした,という現象です。「ストロー効果」といわれたりします。
2.長期的にはメリットがある
都市と地方がつながるメリットは以下のメカニズムで働きます。
1)都市部の住民が地方の特産品や農業製品を購入する。
2)都市部の人たちが地方に観光にいく,あるいは混雑をきらって地方に移住する。
3)都市では競争が激しく利益が得られないので,地方に企業が投資をする。
などです。具体的には,木更津に有名アウトレットパークができたとか,つくば市の人口が増えているとか,です。
都市と地方が「つながる」ことによって地方は得をします。中国の事例ですが,私の研究でも地方都市化間の格差を固定化する効果よりも都市の恩恵が地方にいく効果の方が大きいと出ています(岡本2012)。
3.地方が消滅することは悪いことか?
すべての地方が都市とつながったとして、すべての地方にメリットがあるとは考えにくいのは確かです。日本の人口が減少傾向にあるために、地方に行くのが便利になった、都市の混雑がいやで地方に住みたいという需要が出てきますが、すべての地方を潤すほどの労働者と消費者がいるわけではありません。
となると、やはり一部地方には、消滅するリスクが存在します。
しかし、ミクロ的な個人の感情を除いて、マクロ的な経済全体としては地方消滅にはメリットがあります。
都市化は災害、環境、エネルギー、そして経済の生産性向上に力を発揮します(グレイザー2012)。
都市の方が災害の被害が少なく、環境にもやさしく、エネルギーを節約することが可能です。
自宅で各部屋に家族が散らばってエアコンを各部屋ガンガンかけるよりも、リビングに集まっているほうが、環境とエネルギーに優しいのと同じです。
それに加えて、多くの多様な人々が都市に集まるため、新しいアイデアが生み出され、生産性が向上する可能性も増します。生産性が向上すれば、その都市が経済発展を牽引します。この意味でも都市は「人類最大の発明」であるのです。(この意味では、東京はさておき大阪は頑張ってほしい。)
ただ、個人的あるいはミクロ的には、地方消滅には物悲しいものがあることは否定できません。自分の育った村が、朽ち果てていくのをみるのはつらいことでしょう。
しかし、それでも郷愁という感情を我慢すれば,自然淘汰としての地方消滅、そしてその反対の現象としての東京一極集中は、国全体としては便益の方が大きいのです。
<参考>
岡本信広(2012)『中国の地域経済: 空間構造と相互依存』日本評論社
エドワード・グレイザー(山形浩生)(2012)『都市は人類最高の発明である』NTT出版
岡本信広(大東文化大学国際関係学部教授)
http://okmtnbhr.seesaa.net/