関電の高浜3・4号機をめぐる差し止め訴訟は、仮処分で差し止め決定を出した樋口裁判官が名古屋家裁に左遷され、普通の裁判官が本訴を担当して常識的な決定を出した。手元に決定の全文はないが、決定要旨によれば
裁判所は,新規制基準の内容及び規制委員会の基準適合性判断に不合理な点があるか否かという観点から,原子炉施設の安全性を審理・判断するのが相当であるが,[…]債権者[原告]らによる主張疎明その他本件に現れた一切の事情を考慮しても,債権者らの人格権が侵害される具体的危険を認めるには足りないから,債権者らの申立ては,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
このような考え方は他の川内などの決定でも踏襲されているが、現在の原発の安全性を新規制基準に不合理な点があるかどうかで判断するのはおかしい。こうした判決の原型は伊方原発訴訟だが、そこで争われたのは原発の設置許可の際の安全基準の合理性であり、原発の「再稼動」の可否ではない。
もし伊方原発の設置許可に瑕疵があったとすれば、裁判所が発電所の運転を差し止めることは合法である。これは(姉歯ビルのように)建築確認の段階で違法行為があった場合と同じだ。しかし建築物(この場合は原発)が建設された後に改正された新基準にもとづいて、それ以前の建物の取り壊しを命じることはできない。
いま日本原電の敦賀2号機をめぐって争われているのも、そういう法の遡及適用である。「重要施設を活断層の上に建ててはならない」という耐震設計指針は2012年の原子炉等規制法でできたものであり、1982年に着工した敦賀2号には適用できない。
同様に2012年に改正された規制基準をそれ以前に設置許可された原子炉に適用することは、バックフィットという例外的な規制で、諸外国では規制当局と事業者の合意なしでは適用できない。今回の新基準でいえば、非常用電源の防水などの福島事故に関連するバックフィットはすでに行なわれ、「ストレステスト」にも合格している。
もちろん発電所が新基準に合致しているのは望ましいことだから、規制委員会は時間をかけて審査すればよい。しかし彼らは、すでに設置認可を受けた発電所の再稼動を認可も差し止めもできない。閣議決定された答弁書にも「[委員会が]発電用原子炉の再稼働を認可する規定はない」と明記されている。
規制委員会が設置許可を取り消すためには法的な手続きが必要だが、委員会はその手続きすら定めないで「田中私案」という3ページのメモでやっている。民主党政権で法改正を行なった福山哲郎氏も、「規制委員会に再稼動を止める法的権限はない」と認めた。
これが福山氏のお好きな立憲主義である。個人的にはすべての原発を止めたい人もいるだろうし動かしてほしい人もいるだろうが、法治国家では原発の運転は彼らの気持ちではなく、法にもとづいて決めるのだ。