宮崎議員が留意すべき「広報の罠」

新田 哲史

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どうも新田です。これはマジで奇遇だったのですが、本日発売の「ZAITEN」(財界展望)の臨時増刊号「企業広報の罠」に寄稿したお知らせを出そうとしたタイミングで、打ってつけのケーススタディが永田町で勃発したため、ええい、どうせならと開き直って便乗するこの頃です。

この前も書きましたように、宮崎議員と奥様の金子議員はアジェンダ設定には成功したと申し上げました。このアゴラでも関連のエントリーやそれに対するコメントは賛否真っ二つ(まとめリンクはこちら)。蓮舫センセに対する人格否定、やや罵倒気味の批判に見られるように、季節外れの熱戦・舌戦が鋭意展開中で、議論を巻き起こすところまでは思惑通りでありましょう。

「準備不足」を感じさせるブログの薄さ


ただ、この間、宮崎さんの発信内容を見ていると、ソワソワさせてくれます。というのも、ここまでの段取りなり、メッセージ内容なりがあまりにも「荒削り」すぎて、まるで直球だけは160キロをマークするものの、ノーコンを気にしている素振りが微塵のかけらも無い、未完の大器型育成ドラフト1位右腕を彷彿とさせます。

ネット政治ヲチャーの皆様にはご案内のように、本件が勃発してから彼は昨日までブログに関連投稿を3回やっております。しかし、初回は決意表明と見て「政策的に説得力のあるエビデンス的な中身は無いのかよ」と大目に見たものの、その後の2回も中身が薄い。

むしろ面識も無いのに自発的に擁護論をしている駒崎さんの方が理路整然、豊富な知見を元に様々な事象を引用しております。さすがに朝生で田原さんから子育ての専門家として出演していない時にも名前が出る駒崎さんほどの専門的知見を若い彼に求めませんが、せめて駒崎さんが最初に書いた半分程度くらいはデータなり、エビデンス等のネタを仕込んでないと、反対派のおじさん議員たちを説得するのは難しいでしょう。

勝負に出る時点で「おっ」と思わせないと


普通は勝負に出る時点、すなわち今回なら23日の結婚披露宴時の記者会見が本格的な花火打ち上げにするなら、直後に発信するブログくらいは政策的な中身が濃くないと、と思いますがね。少なくともここまでの発信内容からして、駒崎さんや、他にパイプのある専門家から十分ヒアリングをしているようには感じられません。

3回目のブログのタイトルが「海外の育休」と期待値を高めておきながら、蓋を開けてみると、「からだノート」あたりのお手軽検索をして、国内外の育休比率を並べてみせるだけで、あっさり終わられて「まともなブレーンがいないのではないか」と思わせられます。ていうか、マジで大丈夫かよ。

今の彼が引用するべきは、デンマークあたりの海外の国会議員の育休事例や制度などを、自分や秘書の文献・ウェブ調査なり、専門家からの聞き取りなりで、きちんと調べて、一般国民が「ほう」っと思わせる中身の方が賢明だったと考えますが、どうでしょうか。

党要人の苦言は「根回し」不足の証左


企業に例えれば、自民党は老舗の最大手企業。これまでの商慣習を破るような問題提起をするならば、掲げたアジェンダを提起したに終わらず、確実に実現するにはどうすればいいのか、近しいキーパーソンに対する事前の「社内政治」、まあ、根回しは疎かにしたくないところです。

“社長兼CEO”の安倍さん、“社長室長”の菅さんは披露宴に出席されただけあって、割と好意的なようですが、

菅官房長官:「育休を取ると相談を受けた。育休を取るための議員立法を超党派で作ってもいいんじゃないかな、こんな思いさえする」
ANNニュース(12月23日) http://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000065000.html

一方、“COO”の谷垣さんは渋柿みたいな味わいのコメントです。毎日新聞の社説(12月26日)より。

「議員は被雇用者と違う。1票によって採決結果が違う時にどう扱うかという問題もある」と苦言を呈するのは谷垣禎一幹事長だ。

続けて社説では、肝心な“直属の上司”(=所属派閥のボス)である二階さんの苦言も紹介。

二階俊博総務会長は「(宮崎議員は)予算委員会に属している。そんなことまで持ち込まないでほしい。みんなに迷惑を掛けないように」と手厳しい。

ここらの発言から、根回しをしていないか、していたとしても、この手の発言が出るのは、十分な意思疎通を図っているようにはとても見えません。「見切り発車」してしまったのではないでしょうか。

広報は「地上戦」もおろそかにするな


昨年、ダイヤモンド社から出た「社内政治の教科書」がベストセラーになったあたり、このご時世にあって、若いビジネスパーソンが改めて社内の根回しの重要性を見つめ直しているように思います。



ましてや政治の世界は“昼の永田町”ではなく、“夜の赤坂”で大枠が決まっているわけです。もちろん「小泉さんは郵政民営化の時、最初は党内で反対だらけだった」的な反論もあるわけですが、根回しをすっ飛ばし、持ち前の突破力を発揮しているように見えるアノ小泉父子も橋下さんも実は夜の根回しを重視されています。

企業広報的には時流を汲んだアジェンダ設定は「空中戦」ですが、空爆だけでは敵地を支配下におけず、最後は地味な「地上戦」、すなわちメディア、株主、監督官庁、アライアンス先企業等のステークホルダーであったり、肝心要の顧客とのリレーションが物を言います。もちろんドブ板選挙もこなされている宮崎議員におかれましては百も承知のこととは思いますが、万一、足元をおろそかに突破力頼みをして目立つほど、嫉妬が怖い。身内のはずの党内から足を引っ張ったりする動きは政界ではよくあること。

あるいは、そうした筋からリークされずとも週刊誌界隈は年明け一発目のスクープを狙い、政治資金の流れの分析であったり、「本当に育休を取る必要があるのか」夜の行動をカメラマンに追跡させていたりしそうです。足元をすくわれないかもしれず、今後、党内外にどれだけシンパを選挙と同じように広げられるのか、メディア頼みではない、地に足のついた“育休広報”をやっていただければと思います。ではでは。


【追伸】ZAITEN増刊号への寄稿ですが、『メディアで台頭する「新型記者」に企業広報はどう立ち向かうか」の論考で、ネット世代の取材者に企業広報がどう付き合うべきか書いております。ほかのページが猪瀬直樹、佐藤優、佐々木俊尚、郷原信郎らの大物に取り囲まれた「ビルの谷間のラーメン屋」状態の拙稿をご笑覧くだされば幸いです。


新田 哲史
アゴラ編集長/ソーシャルアナリスト
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