あけましておめでとうございます。
激動が予想される2016年が始まりました。
本年もご指導、ご鞭撻のほど宜しくお願いします。
年頭の初仕事として、フラッシュメモリの今後を予測してみます。
「一本足打法」などとも言われるように、フラッシュメモリは不適切会計問題で揺れる東芝の屋台骨の事業です。
12月21日に発表された東芝の2015年度の業績予測によると、フラッシュメモリ事業の売り上げは前年度の8606億円から8100億円に減少(6%減)、営業利益は前年度の2502億円から1300億円に減少(48%減少)となっています。
屋台骨のフラッシュメモリ事業が大幅減益になり、大丈夫か?と言われていますが、営業利益率が16%(前年度が29%)ですから、そんなに悪いわけではないのです。2014年度の29%というのがすごいですね。
とはいえ、他の事業の多くが赤字ですし構造改革(リストラ)費用もかかるので、フラッシュメモリの利益を食い潰し、全社として最終的には5500億円もの巨額赤字になるようです。
さてフラッシュメモリ事業の今後を予測すると、これくらいの減益でジタバタするな、というところです。
元々半導体メモリ事業は非常に収益の変動が激しいもの。むしろ、微細化や3次元化によって大容量化を進め、メモリベンダ自身が積極的に価格を下落させることで市場を拡大してきたのです。
フラッシュメモリのギガバイト当たりの単価は下落を続け、2011年には1ギガバイトあたり1ドルだったのが、今の価格を見ると0.3ドルくらいまで落ちています。つまり、4年で価格が1/3以下になっているのです。
価格下落によって市場が拡大してきました。
ただ、価格下落と市場拡大は必ずしも連続的に起こるわけではありません。価格が下落しても、すぐには市場が拡大せず、しばらく減益が続くこともあります。
現在の市況では、主力のスマートフォンの成長が鈍化し、中国など新興国の成長が鈍化すると、短期的にはフラッシュメモリの価格が大幅に下落して、収益では厳しい時期が続くのではないかと予想されます。
フラッシュメモリは90年代後半にデジタルカメラというキラーアプリケーションが生まれることで成長が始まりました。
90年代から2000年代にかけて、カメラの高画素化が進むにつれて、大容量のメモリが必要とされ、フラッシュメモリ市場は急拡大しました。
そして2000年代なかばに、デジタルカメラの高画素化が飽和するにつれ、必要なメモリ容量も飽和しました。
この時はフラッシュメモリの価格が急落し、事業としては厳しい時期が続きました。
しかし、フラッシュメモリの価格下落が、iPodをはじめとする音楽プレーヤーの登場を促し、その後の市場の急拡大につながりました。
今のフラッシュメモリ市場は、そのような市場拡大の踊り場に来ているのではないか。しばらくは収益で厳しい時期が続くかもしれませんので、次の急成長までの間をどうやって凌ぐかが大切になります。
そういったフラッシュメモリの市場循環の巡り合わせが悪い時期に、不適切会計問題が起こってしまったのは、不運といえば不運です。東芝にはここを何とか踏ん張って欲しいところです。
一方、長期的に考えると、フラッシュメモリの将来は決して暗くないと思います。パソコンへのSSDの搭載率もまだ20%程度です。ビッグデータ、IoTと言われるように、膨大なデータを高速・低電力に処理できるメモリが今後データセンタで必要とされます。
つまり、フラッシュメモリの主戦場は、スマートフォンやタブレットなどの携帯端末から、データセンタのサーバー・ストレージに移りながら市場は拡大していくと考えています。
ただ、上述のようにそのような市場のシフトは非連続的に起こります。
過去の経験からも、フラッシュメモリの価格が既存のHDDなどの2-3倍程度に下がった時点で、市場は急拡大するでしょう。それまではしばらく、我慢の時期が続くでしょうが、決して悲観すべき状態ではないと思います。
ただし、今のメモリを単純に大容量化していけば自動的に市場が拡大するとも思っていません。
携帯端末に比べればデータセンタのストレージは性能や電力、信頼性の要求が厳しい。新しい市場を開拓するには、更なる高性能化・高品質化が求められているのです。
また社会の要請としては、画像などの膨大なデータをどのように長期にわたって保存するか、デジタルデータ(アーカイブ)を後世に伝えることが求められています。
「紙」は記憶媒体としての品質は素晴らしいのです。
正倉院に保存された紙は1000年以上の長きにわたってデータを保存できているわけですが、デジタルデータを記憶する媒体は数年から高々10~20年程度です。
私たちはデジタルデータを100年以上の長期にわたって保管するため、JST CRESTの支援を頂いて2015年の10月から「デジタルデータの長期保管を実現する高信頼メモリシステム」という産学連携の国家プロジェクトを始めました。
エレクトロニクスの歴史は機械部品を電子部品に置き換えること。
メモリの分野にはまだ光ディスク、HDDといった機械部品が残っています。
この世の中に存在する全てのデジタルデータを半導体メモリに保管する、という究極的な目標を実現するためにはまだ道なかばというところです。
そのためには高性能化・高品質化といった質の向上は私たち研究者が担当するとしても、大容量化・低コスト化は産業界に頑張ってもらわなければいけません。
不適切会計事件を起こした責任は大きいでしょうが、こんなところで東芝のフラッシュメモリ事業がずっこけてもらっては困るのです。
フラッシュメモリに対する社会的な期待は大きいわけですから、試練の2016年を産官学が連携して乗り切っていきたいと思っています。
編集部より:この投稿は、竹内健・中央大理工学部教授の研究室ブログ「竹内研究室の日記」2016年1月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「竹内研究室の日記」をご覧ください。