箱根駅伝は日本が抱える病の縮図?

箱根駅伝は、ドラマティックな物語があり、人びとを魅了し、感動させてくれます。だからますます人気が高まってきています。それを反映するように、番組平均世帯視聴率(関東地区)も高く、今大会も往路28.0%、復路27.8%でした。スポーツの視聴率が概して低下してきた昨今では、珍しいことです。しかし、箱根駅伝で繰り広げられるドラマから視点を少し離してみると、また違った世界が見えてきます。


視聴率の推移を見ると、視聴率が25%を超えたのは、1992年の第68大会の復路で、翌年からはほぼ25%超えがほとんど続く人気を得ていますが、1991年までは、20%を超えるのも稀だという状況でした。
箱根駅伝 | ビデオリサーチ

つまり、昔から箱根駅伝はそれなりに高い人気はあったけれど、バブルが崩壊し、日本経済が停滞し始めてからさらに人気が高まったことになります。しかし、箱根駅伝の人気の高まりとは裏腹に、1992年(平成4年)のバルセロナオリンピックで森下広一が2位で銀メダルをとったのを最後に、世界のマラソンの舞台で華々しい記録をつくってきた日本男子マラソンの黄金期は終わります。それ以降は世界のマラソンの高速化やハイレベル化についていけなくなってしまいました。

日本の男子長距離は、マラソンという世界の檜舞台では通用しなくなり、逆に国内の駅伝人気が高まってきたことになります。

ところで、もしかすると箱根駅伝は全国大会だと思っている人がいらっしゃるかもしれませんが、関東学生陸上競技連盟が主催し読売新聞社が共催している大会で、なんと「箱根駅伝」は読売新聞東京本社の登録商標なのです。
だから関東の大学しか出場していません。それが全国放送され、あたかも国民的イベントのように読売新聞、日本テレビが演じてきたのです。まあ、関東の地方イベントが、日本を代表するイベントになっているというのは、箱根駅伝にかぎらず、ビジネスの分野でもよくある話ですが。

しかし、にもかかわらず、箱根駅伝は全国区なのです。選手の出身校です。連覇を果たした青山学院の選手を見ると、なんと関東の高校出身者は一人もいません。
青山学院選手一覧|第92回箱根駅伝

第2位の東洋大学は、関東の高校出身者が、埼玉2名、栃木1名で10名中3名です。
東洋大学選手一覧|第92回箱根駅伝|

第3位の駒沢大学は、関東の高校出身者は     東京・駒大高の1名だけです。
駒沢大学選手一覧|第92回箱根駅伝|

つまり、走っている選手のほとんどが地方の高校出身者で、その意味では全国を代表する選手なのでしょう。日本の経済と同じです。地方から人材が流出し、東京一極に吸収されている日本と同じ姿です。そして世界の檜舞台で活躍する選手を輩出できなくなっているのです。因果関係はよくわかりませんが、東京の大学に選手を集めて、決して日本の男子長距離を強くすることに役立ってこなかったことだけは事実です。しかも、その構図の後押しをしてきたのが読売新聞グループです。                

箱根駅伝の人気が高まってきたなかで、一部かもしれませんが、批判も起こるようになってきました。意識朦朧の選手を大写しにする箱根駅伝に「お茶の間残酷ショー」じゃないかとか、襷をつなぐ行為が「連帯責任の権化みたいなスポーツだ」、「日本に過労死が多い理由が分かる」と言った批判です。ブロゴスのキャリコネの記事がそんな声を紹介しています。マスコミが感動を「切り取って伝える」ことへの警戒感も必要なのかもしれません。
意識朦朧の選手を大写しにする箱根駅伝に「お茶の間残酷ショー」との批判 「日本に過労死が多い理由が分かる」という声も

読売グループの日テレのカメラワークで、選手たちの繰り広げるドラマをさらに効果的にドラマ化して、選手たちにプレッシャーをかけ、また人気を煽って、ミスリードしている。しかも国内だけしか通じない、ガラパゴス化した国内だけの自己満足で終わってしまっているようにも見えてきます。
はたして箱根駅伝は日本の陸上にとって健全で、選手のレベル育成や向上にほんとうに役立っているのでしょうか。ぜひ日本の陸上界には世界の舞台で、ほんとうの成果を見せて欲しいものです。

大西宏