あけましておめでとうございます。
年明け早々ウェットな話題であれですが、昨年に続きパチンコVW問題についてのお話です。なお本家のVW(フォルクスワーゲン)の方は米国司法省から「米国人の健康を害し、消費者を欺いた」と断罪されており10兆円近くの制裁金が課される可能性もあるようです
http://www.yomiuri.co.jp/world/20160105-OYT1T50046.html
話はそれましたが本題に戻りまして今回は「1/4から始まった今国会でパチンコVW問題について何を論ずべきか」という点について考えていきたいと思います。個人的にはこの問題についてまず国会の場で問うべきは
「今回の一連のパチンコの不正改造問題によって社会にどのような悪影響が生じたのか?」
という点についてのコンセンサスだと考えております。迂遠ではありますが、この点について認識がすれ違うといつまでも議論があっちこっちに跳んでしまい前に進まないからです。実際最近パチンコ業界の方々が「不正改造というが、我々はそれをパチンコユーザーが求めるからやったんだ。それの何が悪い。」というような主張をしていることを散見しますが、それは風営法という法律の趣旨を全く理解していないある種の「開き直り」です。風営法は第一条において以下のように目的規程を置いています。
(目的)
第一条 この法律は、善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため、風俗営業及び性風俗関連特殊営業等について、営業時間、営業区域等を制限し、及び年少者をこれらの営業所に立ち入らせること等を規制するとともに、風俗営業の健全化に資するため、その業務の適正化を促進する等の措置を講ずることを目的とする。
このように風営法の目的は【①善良の風俗と清浄な風俗環境の保持】と【②少年の健全な育成に障害を及ぼす行為の防止】にあるわけです。パチンコ業界の一連の不正行為はこのうちの「善良の風俗と清浄な風俗環境」を乱したことに罪があるわけで、(少なくとも風営法から見た観点では)本質的に消費者問題というよりも社会問題であるという認識からスタートすること重要だと考えています。そうした観点から見ると「ファンのためにやった」というパチンコ業界の主張は決して認められるものではありません。
では「パチンコの不正改造によって生じる社会問題とは何か?」というとそれはまぎれも無くギャンブル依存症問題でありまして、「風営法のパチンコに関する射幸性管理規制とギャンブル依存症問題との関係」についての政府の見解というものを整理することが、この問題解決に向けたスタート地点なのではないかと考えております。
よく「パチンコの射幸性を下げてもギャンブル依存症罹患者は治らない。だからパチンコの射幸性を下げても意味が無い。」という言説を唱える業界人を見るのですが、こういった人達は大きな勘違いをしているような気がします。
ギャンブル依存症罹患者の回復は一朝一夕に出来るものではないのは当たり前の話で誰もパチンコの射幸性を下げたところでギャンブル依存症罹患者が回復するなどと考えていません。ギャンブル依存症罹患者の回復のための政策というのはそれはそれで非常に重要な課題ですがここで一義的に論じられるべきは回復のための政策ではなく、「ギャンブル依存症問題の社会への二次的被害をどのように抑えるか」という点なのだと思います。
ギャンブル依存症問題を考える会の田中代表が上記スライドに上手くまとめてくれていますが、ギャンブル依存症に関連する社会問題というのは犯罪、貧困、教育、医療、と様々にあるわけです。風営法におけるパチンコの射幸性管理というものはおそらくこうしたギャンブル依存症の二次的被害を抑えるために設けられているわけでありまして、「パチンコ業界は法を破ることでギャンブル依存症の二次的被害を拡大し清浄な風俗環境を乱した」という認識を行政・パチンコ業界が共有することが問題解決に向けたスタートなのでは無いでしょうか。
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こうした基本認識の共有の上で、論じられるべきは
「パチンコ業界で度々繰り返されて来た大規模な不正改造問題が二度と生じないようにするためにはどの様な対策を講じるべきか」
ということなのだと思います。
この点について詳細はまた別途まとめますが、大事なことは「法を法として機能させる」ということなのだと思います。今まで警察はパチンコ業界の不正行為に対して基本的には「風営法を背景にした行政指導により、業界に自主規制を見直させる」という方針を取ってきました。こうした裁量的手法はパチンコ業界から換金等のヤクザ利権を追放する仕組みを官民協力して暗中模索しながら作っていく過程では仕方が無かったことだとは思います。ただ「三店方式」が完全に確立し業界からヤクザが追放された今となっては時代遅れとなりつつあり、むしろ「警察に表向き逆らわなければ何をしても俺たちはいいんだ」というようなパチンコ業界のコンプライアンス軽視の風潮が跋扈する、遠因にもなっているように感じます。
ここらで警察は行政指導と業界団体の自主規制に頼った裁量行政から脱皮して「法は法として厳密に機能せしめる」という方針に切り替えて「一罰百戒」の方針に切り替えていくことが重要になっていくように感じております。その意味で今回のパチンコメーカーの違法行為には断固とした姿勢で臨むことが期待され、あわせて裁量行政の総括というものを国会で議論していく必要があるのではないでしょうか。
そのような中で制度的な議論を深め、現状の自由裁量の任意規程に偏重した風営法の罰則制度の見直して羈束裁量化していくことや、特にホールの釘調整を中心に業界の実態から乖離した規制の運用の在り方の見直しを議論していく必要があるのだと思います。(ホールの釘調整に関する法的論点はまた別途まとめます)
以上長くなりましたがまとめますと今国会においてはパチンコ不正改造問題に関しまして大きく
①風営法における射幸性管理規制の意義とギャンブル依存症問題との関係の確認
②パチンコ業界における警察の裁量行政の評価と総括
③不正改造問題を二度と生まないための制度運用の在り方の見直しの方向性
などについて議論していただきたいと考えております。
ではでは今回はこの辺で。
編集部より:このブログは「宇佐美典也のblog」2016年1月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は宇佐美典也のblogをご覧ください。