沖縄の基地をめぐっては、仲井真前知事が承認した辺野古移転を翁長知事がくつがえし、国の工事の差し止め訴訟を起こす異常事態になっている。こういうとき地元紙が持ち出すのが「在日米軍基地の75%が沖縄に集中している」という話だが、本書も指摘するようにこれは誤りである。
米軍基地の多くは自衛隊などとの共同管理施設だから「すべての在日米軍施設」を分母にすると、沖縄にあるのは23%だ。「米軍の専用施設」に限ると62%だが、辺野古をめぐる日米合意でこれを42%まで低下させる計画だ。「沖縄の負担が重すぎる」というのなら、その負担を軽減する日米合意に、なぜ知事が反対するのか。
それは「沖縄は被害者だ」という政治的アピールを続けることによって、本土から補助金をもらい続けるためだ。著者は大学の研究者として『沖縄問題の起源』という専門書を書き、「日本が沖縄を見捨てた」という通説が誤りであることを実証した。サンフランシスコ条約で日本政府は沖縄に主権があると主張し、アメリカの信託統治はあくまでも暫定的なものと認めさせたのだ。
「普天間が世界一危険な基地だ」というのも都市伝説で、今まで死傷者は1人も出ていない。著者は打開策として、沖縄本島の中部にある勝連半島の沖に辺野古よりずっと低コストで移転できるという提案をした。海兵隊もこの案がベストだと認めたが、米国務省が政治的に難色を示し、日本政府も動かなかったため、立ち消えになった。
その後も著者は沖縄の海兵隊政務外交部次長として地元の反米メディアを説得しようとするが、トラブルを起こして更迭される。元日本部長のケビン・メア氏のケースと同じで、国務省の事なかれ主義は日本の外務省も顔負けだ。おかげで日米のリンクが切れ、辺野古問題はデッドロックになってしまった。
しかし中国は南シナ海に拠点を築くばかりでなく、最近は「沖縄は日本のものではない」という発言を国際会議でするようになった。それに呼応するように沖縄でも「独立論」が出ているが、それがどんな結果をまねくかは、チベットを見れば明らかだ。
本書はせっかく沖縄問題の研究者が書いたのに、話題が彼が更迭される前後の事件に片寄っている。沖縄問題がなぜここまで歪んだのかについて、戦後の日米関係の歴史の中で明らかにする続編を期待したい。