大雪や大雨での鉄道の間引き運転をなくしたい --- 阿部 等

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▲「間引き運転」による社会的損失が問われる(アゴラ編集部)


1月18日の朝、多くの人が大雪を見込んだ東急電鉄の間引き運転と速度制限により膨大な時間を浪費した。また、あの超満員電車が何らかの理由で駅間に長時間停まったら体調を崩す人が続出しただろう。

京王線も間引き運転により大混乱したが、車両基地で架線が溶断して車両が出庫できなくなったせいであり、意図的な間引き運転ではなかったので、ここでは触れない。

マスコミでは東横線と田園都市線ばかりが取上げられたが、目黒線・大井町線その他も同様で、相互直通する地下鉄各線や東武・西武等へも影響した。それにより150万人が平均1時間を浪費したとすると150万時間である。1時間の価値を2000円(日本人の平均給与から換算)とすると30億円の社会的損失が生れた。

大雪や大雨が予測されて事前に間引き運転や運休が計画され、実際はそれほどでもなかったのに計画通りに実行し、輸送力不足で大混乱あるいは交通システムの役割を放棄した事例は、過去に何回もある。

JR東日本は、2013年1月14日の大雪による混乱の後、2月6日に小雪なのに過剰に間引き運転をして大混乱を起した。JR西日本は、2014年10月13日に、前日に決めた運休を台風が弱まっても実行し、他の民鉄は平常運転している中、利用者は多大な迷惑を受けた。

しかし、今回、東急電鉄がどうして過剰な間引き運転をしたのかを知ると、一方的に責められないことが分かる。2014年2月15日に、大雪の東横線の元住吉駅で追突事故があり、「事故は大雪にも関わらず間引き運転も速度制限もしなかったせい」と責められた。翌日には国交省から、今後は「積雪の状況に応じた適切な運転規制等を実施すること」と指導され、それへの答えが間引き運転と速度制限だったのだ。

その上で、問題点を明確にするためにあえて申上げよう。過度な間引き運転と速度制限は、鉄道会社による「過剰防衛」であり、鉄道会社は「安全唯一」から脱却すべきだ。鉄道が「安全第一」でなければいけないことは議論の余地がないが、安全でありさえすれば利便性も効率性も経済性もお構いなしの「安全唯一」でもいけない。利用者にも、社会にも、鉄道会社自身にもマイナスだ。

冒頭に書いた30億円は、東急電鉄の鉄道売上の1週間分に当る。間引き運転という「過剰防衛」により、それほど大きな社会的損失が生れるほど、鉄道会社の影響力は大きい。

安全を維持しつつ利便性や効率性や経済性を高めることに叡智を投じたい。ではどうしたらよいかは、「ニュースソクラ」に寄稿した。利用者の協力と鉄道の努力により「間引き運転」はなくせるのだ。

過剰あるいは無用な間引き運転により大きな社会的損失を生み出した鉄道会社を責めるばかりでは問題を解決できない。むしろ、鉄道は、バスのように運転手の不慣れや体調不良が重大事故に直結しない本質的に安定的な交通システムであり、少しのトラブルを、鬼の首でも取ったように報道するマスコミにこそ自省を求めたい。そういった報道姿勢が、鉄道会社や行政の「過剰防衛」や「安全唯一」を生み出しているのだ。

乱暴な議論だとの見方が出ることは覚悟の上で、より良い未来を開く議論の切っ掛けとなることを願って本稿を書いた。

阿部 等・(株)ライトレール・代表取締役社長

《おしらせ》(株)ライトレールが事務局を務める工学院大学オープンカレッジ鉄道講座では、2月2日にトピックス講座「災害に強い鉄道にするために」(工学院大学 曽根悟特任教授)を開講する。多くの方の受講と取材をお待ちしている。