【映画評】ブラック・スキャンダル --- 渡 まち子

1970年代のサウス・ボストン。ジェームズ・バルジャーとその弟ビリー、二人の幼なじみジョン・コノリーは、ギャング、政治家、FBI捜査官と、それぞれの道に進んでいった。コノリーは、アイルランド系マフィアのボスになったバルジャーに、FBIと協力して共通の敵であるイタリア系マフィアを撲滅させるため、敵の情報を流すように持ち掛ける。その密約は次第に歯止めが効かなくなり、バルジャーは一大犯罪帝国を築き、ビリーとコノリーもまた権力を手にしていった。彼らの関係は、やがてアメリカ史上最悪の汚職事件に発展していく…。

ギャング、FBI、政治家が手を組むという米犯罪史上最悪のスキャンダルを描く実録犯罪映画「ブラック・スキャンダル」。マフィアのボスであるジェームズ・“ホワイティ”・バルジャーは伝説的なギャングで、ビンラディンに次いでFBIの最重要指名手配犯だった人物だ。何しろFBIとの密約に守られているので、白昼堂々と人を殺しても一切おとがめなしとは。一体どこまで腐りきった関係なんだとあきれるばかり。それはコノリーの言葉を借りれば「貧しい街で生まれ育った仲間の絆と忠誠心」ということになるが、本作ではギャング映画にありがちな、幼少期のノスタルジックな描写は、いっさい排除している。

実話をもとにしたギャング映画など、手垢がついたジャンルだが、このドライな演出が実に潔い。スコット・クーパー監督は本作が監督3作目だが、彼の作品ではいつも俳優が最高の演技をみせるのは、監督自身が俳優出身で、演技者に寄り添って演出しているからに違いない。とりわけ、薄い頭髪のオールバック姿で非情なマフィアを演じるジョニー・デップの圧倒的な存在感ときたら!デップの怪演の前では、カンパーバッチやエドガートンら、演技巧者たちさえ影が薄いほどだ。支配欲や冷酷さを持ちながら、家族を溺愛するなど矛盾したバルジャーという男は、常に光と闇を内包しながら肥大化してきたアメリカ社会そのものに思える。
【85点】
(原題「BLACK MASS」)
(アメリカ/スコット・クーパー監督/ジョニー・デップ、ジョエル・エドガートン、ベネディクト・カンバーバッチ、他)
(バイオレンス度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年1月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。