日本の半導体はソニーのイメージセンサー、東芝のフラッシュメモリなど数少ない勝ち組を除いては、総崩れになりました。
特に酷い状態なのがシステムLSI。日立、三菱電機、NECの半導体をスピンオフして作られたルネサスエレクトロニクスは業績悪化によって、社内の半数近くもがリストラされる状況に追い込まれました。東芝でも不適切会計の舞台になったように、システムLSI事業は不採算だったようで、これからリストラが行われます。
車も電気自動車・自動運転など、コンピュータ化が進んでいます。社会のあらゆる機器に組み込まれる半導体はこれからも重要です。実際、「アマゾンが半導体製造 米ネット企業の垂直統合戦略」にも書かれているように、サービス事業者であるアマゾンが自社のサービスを差別化するために半導体に参入しているのです。
アップルはiPhoneに搭載される半導体を自社で設計しています。半導体の外販はしていませんが、実はアップルは世界有数の規模の半導体メーカーなのです。先ほどの記事にも書かれているように、ソフトウエア企業であるグーグル、マイクロソフト、オラクルも半導体に参入しています。
ああ本当に、日本の半導体は勝手に一人でずっこけたんだな、と思いました。
日本の半導体の不振の理由として、円高、新興国企業の台頭、垂直統合から水平分業へのビジネスモデルの転換の遅れ、などが言われています。
これらも重要な問題点でしょうが、本当にそれだけなのでしょうか。
同じような文脈で、日本は技術では負けていない、とも言われています。
日本は技術至上主義、技術で上なのは尊いことだ、と思われがちではないでしょうか。
本当に技術で負けてなかったか?と私は思っていますが、もし仮に技術では負けていなかったとしても、なぜ素晴らしい技術を開発した優秀な技術者が、技術開発だけに留まってしまったのか。
もし経営で負けたのならば、優秀な技術者は弱点である経営を助ける仕事になぜ転換しなかったのか。
日本は技術では負けていない、と言った瞬間に、思考が停止してしまって、もう技術者の責任ではない、というニュアンスを感じてしまうのです。
古くはインテル、アップル、マイクロソフトを創業したアンディ・グローブ、スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツは技術者から経営者になりましたし、最近でもアマゾンを創業したジェフ・ベゾスも元々は技術者です。
私自身も含めて技術者は、技術という狭い世界に閉じこもっていたことを、反省しなければいけないのではないでしょうか。もちろん、技術者として優秀な人が、経営に向いているとは限りませんし、優秀な技術者の全てが経営を行うべきでもありません。求められる技能・特性が全然違いますから。
ただ経営でITをはじめとする技術が重要になっている時代ですから、技術者の中の何人かは、経営の道に進むべきではなかったか。現在、技術者出身で経営をされている方の多くは、技術関係の課長・部長・事業部長・・・と勤め上げた上で、経営者になっているのではないでしょうか。
つまり、終身雇用の中で「出世した成れの果て」に結果的に経営者になっている。
経営の専門家として鍛えられ、経営者として評価されて経営者になっているのではないと思います。
これは企業自体が技術者は専門領域を深堀して欲しい、という人事システムだったから、というのもあるでしょう。
経営の仕事にかかわるならば、韓国の三星電子のように、技術者としてひと仕事したら、30代半ばには商品企画・マーケティングに異動させ、経営者になるためのキャリアパスを歩ませる、ということも必要でしょう。
大学も反省しなければいけません。手に職をつけさせるために、専門技術だけ教えていれば良かった時代は終わりました。学部の学生に技術と経営の両方を学ばせるのは当然、難しい。学部・修士課程の間はまずは技術を身に付けるので良いと思います。
そして、就職して企業の実践の場で技術を磨いた後、30代前半くらいで経営を学ぶ再教育の場として、本当は大学が機能しなければいけないのだと思います。私も留学したアメリカの大学のMBAはまさに、そのようなひと仕事した後の再教育の場となっているのです。
大学の側の勝手な事情と言うと、少子化で大学に入ってくる人の数は減っていくので、市場は縮小します。再教育の場という新しい市場を開拓しないと、大学が生き残ることも難しくなっていくでしょう。このように、なぜ日本の電機メーカー・半導体が総崩れになったかを総括すると、企業、大学、技術者個人の誰もが反省しなければいけないのではないか。
自分たちは技術力があるから、と過信、油断していなかったか。
創業期のインテルに入社し、1980年代、DRAM事業で日本メーカーに敗北したインテルをCPUメーカーに転換させたアンディ・グローブは名著「Only the Paranoid Survive(インテル戦略転換)」の中で、いかに自分が油断していたか、優柔不断だったか、現実から目をそらしていたか、を反省しています。
この本はいわゆる「成功本」ではなく、自分の失敗を赤裸々に懺悔する「失敗本」なのです。
世間では名経営者と思われているグローブが、結果的に大成功したのは、自分の功績ではないと語っています。果敢な戦略転換を実行し、経営危機のインテルを復活に導いたアンディ・グローブでさえも、「パラノイド(病的なほど心配性)でなければ生き残れない」と考えています。
ましてや、我々が油断・過信していたら、ひとたまりも無い。だから負けたのではないか。
日本の電機メーカーは家電や半導体、B2Cからインフラ、車載、B2Bなどに事業を転換させています。日本は技術力はあったのに、経営者がダメだったから負けたのだ、などと思っていては、同じ失敗を繰り返してしまうのではないでしょうか。
まずは失敗した現実を直視することから。
編集部より:この投稿は、竹内健・中央大理工学部教授の研究室ブログ「竹内研究室の日記」2016年1月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「竹内研究室の日記」をご覧ください。