日銀の追加金融緩和は妥当だったのか?

金曜日に日銀は追加金融緩和の一環として市中銀行が日銀に預ける新規預金について今までの0.1%の金利をマイナス0.1%に引き下げると発表しました。いわゆる付利を遂に無くす政策を打ち出したのです。

実は私はこのブログで黒田総裁がバズーカ第一弾を行った後、付利の撤廃が日銀にとってやりやすい政策だと何度か指摘しました。金融緩和でほとんど利息が付かない中でなぜ市中銀行だけが日銀に預けておく分について0.1%の利息が付くのか、論理的にかみ合わなかったからであります。日銀がせっせと金融緩和しても市中銀行は貸出先がなく、結局資金を日銀に預けておくしか方法がありませんでした。おまけに0.1%という利息を貰えるのです。

では銀行は営業を怠っていたのか、といえばそんなわけではなく、優良貸出先を必死になって探しているわけです。が、バブル崩壊後の銀行政策が今の銀行の首を絞めました。企業は晴れの日に傘を差しだす銀行に安心感を抱けず、自己資本を強化し、借入金をせっせと減らし、内部留保をごっそり貯めこみ続けました。

結果として多少の投資ならば手金でできるぐらいの優良な企業体質が出来たわけです。これは銀行に資金需要が生まれにくいということでその間、銀行はやむを得ず、国債で儲けるなどやりくりをしていたわけです。うまい具合に2013年からアベノミクスで企業景観が良化、特に不動産市場が活発となったことが幸いしました。

ある銀行マンが「融資先は不動産ばかりで正直、銀行業務に疑問を感じる」と述べていたのが印象的なぐらい貸出先に偏りが出ていることは事実なのでしょう。

この背景を考えれば今回の目論見である日銀が付利をつけないから企業へ貸し出しを増やせ、と言っても効果は疑問視されます。それ故、金曜日に470円も上げた株式市場に於いてメガバンクは終値で総じて1.6-2.8%下げています。一時はメガバンクで8%程度、りそな銀行に於いては10%も下げるなど金融関係株に突風が吹いたのですが、このキーポイントを多くの報道は見落としています。

このマイナス金利により10年物国債が今後マイナス利回りぐらいまで引っ張られる可能性があり、昨日の終値は前日比マイナス0.125%ベーシスの0.095%となっています。つまり利回りが一日にして半分以下になったのです。異常な動きであります。こうなると喜ぶのは借入金が多い不動産会社などで正直、非常に微妙な気がいたします。

私は2013年のバズーカのあと、景気が上昇するなかで付利の撤廃があるならばこれはワークすると考えていました。が、ここにきて景観は拡大しているどころか引き締めに入っており、春闘も厳しい攻防が続いています。その中で金融政策として今、このタイミングの付利撤廃はよくわかりません。ましてや黒田日銀総裁は1月21日にその可能性をきっぱり否定していました。舌の根も乾く前にとはこのことでなぜ、10日余りで180度方向転換したのか、その背景はやはり為替の動きではなかったか、という気がします。

前日に発表されたアメリカFOMCからは次回の利上げ時期が明示されなかったものの私は半歩から一歩程度後退させたとそのステートメントから感じていました。仮に黒田総裁も同じようにアメリカの利上げペースが遅くなると読み取ったならば円は高くなりやすいバイアスがかかります。が、2%のインフレに拘る総裁としては円高はインフレ2%どころか再びマイナスに落ち込む可能性すら出てきます。そうなれば総裁の手腕は完全に否定されてしまい、歴史に残る悪名となりかねません。「出来ることは何でもする」というのは自分の言い出したインフレ率を達成する為にどれだけ他にしわ寄せが出来ようがそれを正当化させるしかないのではないか、としか思えないのです。

今回の判断は9人の政策委員で5対4でした。第二回目のよくわからないバズーカも5対4でした。つまり、黒田丸の政策は一枚岩ではなく、非常に微妙でタッチーであると言わざるを得ません。夏には選挙を控えています。安倍首相は経済の後押しが欲しいところでそのために日銀のサポートも期待したいところだったと思いますが、これ以上、効果あるバズーカはあるのでしょうか?

私は日欧がずぶずぶの金融緩和で底なし沼に入り込んでいくような気がしてなりません。アメリカの様に足を抜くことが出来るのか、考えれば考えるほど微妙な感じになってしまいます。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 1月31日付より