テロリズム(Terrorism)の語源は、フランス革命期の国民公会でジャコバン・クラブ最左派であった山岳派が展開した恐怖政治(レジーム・ド・ラ・テロール)に由来する。
フランス革命(1789-99年)は絶対王政下における社会・身分制度に見られた矛盾に根ざして起こった革命であり、山岳派は世界史の教科書でもおなじみのマラー・ダントン・ロベスピエールといった急進的革命家を要した派閥である。
なお、政治的立場・思想を指し示す左派・左翼(=急進派・改革派)の語源もフランス革命にあると言われ、これは国民議会(のち憲法制定国民議会)で議長席から見て左側の席を急進派が占めていたからであるとされる。
○「非伝統的脅威」とは
テロはいわゆる「非伝統的脅威」に分類される。戦争をはじめとする武力紛争、日本が直面する北朝鮮の核開発・ミサイル発射実験、あるいは尖閣諸島の領有権問題などは伝統的安全保障の領域に属する問題であり、たとえば中国の軍拡や威嚇を含む軍事行動は「伝統的脅威」である。
一方、自然発生もしくは人為的に生み出された状況によって不特定多数の人々の安全が脅かされるもの、たとえば気候変動や自然災害、感染症、貧困、食糧不足、不法移民および難民の大量発生などの問題は非伝統的安全保障の領域に分類される。
そのような非伝統的安全保障の領域において、主として非国家主体によって作為的につくられる危険や脅威を「非伝統的脅威」という。例を挙げると、テロや海賊行為、越境犯罪組織による麻薬や兵器の密輸・密売、マネーロンダリング、クレジットカード偽造、人身売買とそれに伴う不法強制労働・組織的売春などである。
これらの非伝統的脅威は「新しい」という意味で「非伝統的」と言われているわけではない。テロも海賊も麻薬の問題も、ウェストファリア条約(1648年)によって近代主権国家体制が成立する以前から歴史的に存在していた。テロや海賊それ自体は古来問題とされてきたが、その性質が不変ではない、中身が一新しているという意味で「非伝統的」なのである。
○テロの定義
テロの定義は、安全保障と同様に、万人に受け入れられた普遍的なものがあるわけではなく、国や地域、或いは研究者ごとにかなり多様である。これはテロを定義することが不可能であるというわけではなく、定義をする者の価値観や世界観によってテロをどう認識するかに差異が出るからであると言える。
見る者によっては、あるテロ行為が「自由・解放のための聖戦」と映ることもあれば、それが別の者とってはただの犯罪行為に見えることもある。
現に、日本にはテロを明確に定義する法律はないものの、米英などの諸外国には法律上定義が存在し、実際に運用されている。ここでは「非国家主体が、公共の安全を脅かす不法な行為を行い、かつ国家または社会の一部が不安・動揺・恐れる現象」(宮坂直史・防衛大教授)をテロの定義の一例として挙げておきたい。
この定義からもわかるように、暗殺・人質・爆弾使用などの行為自体はテロではない。あくまでそれらの手段によって、国家・社会を震撼させる「現象」をテロと呼ぶのである。
このような前提に立てば、テロリストとメディアは一種の共生関係にあると言え、日本においては1963年の「吉展ちゃん事件」で報道協定が結ばれたことを契機に、そのような認識が一般に広まった。場合によっては、マスコミによる報道が事件を長引かせ、事態を更に悪化させる可能性も十分にあり得る。
また、新聞・テレビを凌ぐ勢いでYouTubeなどの動画共有サービスやSNSが広く普及した現代においては、一個人が情報に触れる絶対量が圧倒的に増えており、かつほとんどリアルタイムで情報が拡散するため、テロリストにとっては以前にも増してテロを起こしやすい環境が整っている。その結果、一般市民にとってもテロがより現実味を帯びてきているように思われる。
何を以てテロ行為と見なすかについては、1960年代から現代まで作成されてきた13本の国際テロ防止関連条約・議定書および3本の改正議定書に求められるが、具体的には人質、ハイジャック、爆弾テロ、核テロなどがある。
なお、日本では船の乗っ取りを「シージャック」、バスの乗っ取りを「バスジャック」などと表記されることがあるが、乗り物の乗っ取りはすべて「ハイジャック(hijack)」であり、正しくは「シー・ハイジャック(Sea-hijack)」、「バス・ハイジャック(Bus-hijack)」である。
(つづく)
星野了俊 戦略・安全保障アナリスト/コンサルタント
1988年生まれ。防衛大学校人文・社会科学専攻国際関係学科卒。
B’zとウイスキー、それとドストエフスキーが好きです。
個人ブログ「戦略とか安全保障とか」http://akthos.hatenablog.com/
編集部より:この投稿は、星野了俊氏のブログ 2015年12月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「戦略とか安全保障とか」をご覧ください。