混沌とするアメリカ大統領選

アメリカ大統領選の初戦であるアイオワでは民主、共和共注目すべき状況が浮き上がりました。それは人々の行動は事前の予想や支持率通りではない点です。まだ初戦でありますが、半年以上も前から始まった前哨戦を受けての結果はそれなりの意味があると考えています。

まず民主党側ですが、サンダース候補がここまでクリントン候補に肉薄することは想定以上だったと思います。それぞれの得票率はクリントン、サンダース各々49.8対49.6%であります。ほぼ互角と言ってよいでしょう。この結果、獲得代議員数はクリントン氏が22人、サンダース氏が21人でクリントン氏が「勝利宣言」をする意味がよくわかりません。次のニューハンプシャー州はサンダース氏有利の地であり、同候補が一気にその主張、政策を全米レベルにもう一度浸透させれば大票田州でのサプライズが絶対にないとは言えません。

私が気にするのはサンダース氏の自称「民主社会主義者」であります。民主社会主義の意味合いは「革命を否定し、議会制民主主義の中で社会主義の理想を実現しようとする、中道左派の穏健な社会主義思想であり、社会民主主義の捉え方の一つである。資本主義社会の『改良』を訴え、階級闘争を否定するのが特徴」(ウィキ)であります。そして氏はアメリカ上院としては初の社会主義議員でもあります。

もう一つの目線はサンダース氏はユダヤである点でしょう。実はアメリカ大統領選で真の意味でのユダヤ人が予備選を勝利したことはありません。(隠れユダヤと称するケースは別です。)有利とされる次のニューハンプシャー州戦で仮に勝利でもすればユダヤへの刺激と盛り上がりは当然出てくると思います。但し、ユダヤが大統領にならない方がよいという見方もありますが、今の時点では宗教的色合いはほとんど見受けられないと思います。ちなみにもしもサンダース氏が大統領になれば歴代大統領で最も高齢の大統領が誕生し、そして社会主義者がトップに立つアメリカが生まれることになります。当然ながら富裕者層には受け入れがたい大統領となるでしょう。

但し、留意すべき点はサンダース氏の主たるサポーターである若年層はドナルドトランプ氏の支持層の白人中流層と重なるところがあるのです。そのため、仮にトランプ氏が今後失速するならば俄然、サンダース氏へ政策は注目されることになり大衆のハートを掴まないとは限らないのです。

次いで共和党ですが、こちらも団子戦で正直クルーズ氏の勝利宣言とかトランプ氏が敗北したというレベルではないと思います。党集会の結果はクルーズ、トランプ、ルビオ氏がそれぞれ27.7、24.3、23.1%でほかの候補は一桁台ですので当面この三名が先頭集団を形成することになります。代議員数もそれぞれ8名、7名、7名でほとんど差はありません。

多分ですが、トランプ氏は戦術を考えるでしょう。圧倒的支持率を誇った彼が初戦2位に終わったならば普通の発想なら猛烈な巻き返しを図るはずです。事実彼のアイオワでの結果を踏まえ「クルーズは勝ったんじゃない。俺の票を盗んだだけだ!」息巻いています。もともとこの州はクルーズ氏が優位なところだったことは考慮すべきでしょう。

もう一つはクルーズとルビオ両氏は微妙に似た弱点を持っています。クルーズ氏はキューバ移民の父親でカナダ生まれ、ルビオ氏はキューバ移民の両親を持つ点であります。今後アメリカがより純粋な孤独主義、モンロー主義に傾注するようなことがあればトランプ氏の戦術にはまってしまう可能性があります。

ではアメリカが孤立主義に走るケースはどういう時か、でありますが、まずはテロ問題、難民問題が上がります。次に石油の生産調整をOPECやロシアがアメリカに迫ってきた場合、孤立主義で同意せず、気ままにシェールオイルを産出し続けるかもしれません。TPPの批准もあるでしょう。自前主義のアメリカが芽生えたらTPPを批准する動機を失ってしまいます。このあたりは冷静で客観的立場に立てばおかしな論理でありますが、一旦世論が動くような事態が生じればそれは止められない時代になりました。理由はSNSです。

もともと「北アフリカの春」もほぼ同じ理由で勢いで政府が転覆しましたが、マスコミとSNSが作り出す世論の色は一旦加速度がつけば統制不可能になりやすく、そのためには今後、11月までに地球儀ベースでの大事件が起こらないことが最前提になります。もしも何か起きればそこから生まれるであろうエネルギーは全く予想がつかず、ここに名前が挙がっている候補、あるいは無所属で出馬の噂があるマイケル ブルームバーグ氏を含め、誰が当選してもおかしくないということかと思います。

選挙の状況は折に触れてまたアップデートしていきたいと思います。

では今日はこのあたりで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 2月4日付より