【映画評】オデッセイ --- 渡 まち子

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宇宙飛行士で植物学者のマーク・ワトニーは、火星での有人探査中に強烈な嵐に巻き込まれてしまう。仲間の乗組員はワトニーが死亡したと思い、火星を去ってしまうが、彼は生きていた。水も空気も通信手段もなく、基地に残された食料はわずかという危機的状況の中、ワトニーは何とか生き延びようとする。一方、地球では旧式の通信手段からの交信で、ワトニーの生存に気付いたNASAが、ワトニーを救出すべく大胆な計画に挑もうとしていた…。

火星に取り残された宇宙飛行士の決死のサバイバルを描くSF大作「オデッセイ」。水も空気も通信手段もない宇宙でサバイバル…と聞いて悲壮なストーリーを連想するだろうが、この物語の主人公ワトニーは、あきれるほど前向きだ。演じるマット・デイモンの素朴で誠実なキャラが重なって、誰もが主人公を応援したくなるはず。ワトニーが絶対に希望を捨てずに生き抜くと決め、知恵と勇気で難題をひとつひとつクリアしていく姿は、時にコミカルで時にシニカル。彼の生存が公表され、今や地球のすべての人がかたずをのんで見守るワトニー救出作戦を繰り広げる地球側のドラマもまた、見応えがある。

確信犯的に時代遅れでダサいディスコ・ミュージックがこれでもか!とばかりに流れる中、絶望的な状況さえジョークにしてしまう人間の楽天性に魅せられた。なるほど、本作がゴールデン・グローブ賞で「コメディ・ミュージカル部門」にノミネートされたのも納得である。ジェシカ・チャステインやジェフ・ダニエルズ、キウェテル・イジョフォーら演技派と、クリステン・ウィグ、マイケル・ペーニャらコメディ系のキャストとのアンサンブルも絶妙だ。リドリー・スコット監督らしい美しく精緻な映像も健在。近年のSF「プロメテウス」などの悲壮感とは対極にあるスーパー・ポジティブSFエンタテインメントで、見ているこちらも元気がもらえる秀作だ。
【85点】
(原題「THE MARTIAN」)
(アメリカ/リドリー・スコット監督/マット・デイモン、ジェシカ・チャステイン、クリステン・ウィグ、他)
(ポジティブ度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年2月5日の記事を転載させていただきました(画像はアゴラ編集部)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。