面接の質を高めるために人事担当者が取り組むべきこととは? 連載「ダメ面接官の10の習慣」では、ダメな面接官に共通する特徴を取り上げながら、面接の質を向上させ、採用力を高めるためのノウハウをお伝えします。第2回のテーマは「ダメ面接官は候補者に一貫性を求めすぎる」です。
>>「ダメ面接官の10の習慣」――【第1回】ダメ面接官は明確な評価ポイントがない人を不合格にする
たいていの面接官は「一貫性」を重視する
新卒採用でも中途採用でも、面接官は候補者のキャリアの一貫性を重視します。とくにジョブホッパーといわれるような、これといった脈絡もなく短期間で仕事を転々としている方はあまり歓迎されません。どんな仕事でも一定の時間をかけなければスキルは身につかず、成果も出ないと思われているからです。
著書「天才!成功する人々の法則」で知られるベストセラー作家、マルコム・グラッドウェルのいう「1万時間の法則」(超一流になるためには、基礎的な訓練が1万時間必要であるというもの)とまではいわなくとも、ある程度の長い期間、一つのことに打ち込んだ経験は重要です。その経験は結果としてキャリアの一貫性に現れることが多く、そのためキャリアの一貫性を重視する面接官が多いのでしょう。しかし、あまりにその点を重視し、一貫性がなければ機械的に不採用とするようなやり方には大きな落とし穴があると思います。
キャリアの意味は、多くが「後付け」である
心理学用語に「コンステレーション」という言葉があります。この言葉は一般的には「星座」を意味します。星座とは、本来無関係なはずの複数の星の位置関係が、ひとかたまりになって別の意味を持つ形状と見なされるもの。心理学における「コンステレーション」は、人生における一つ一つの事柄や状況が、それら単体の事象だけでは特別な関係や意味がなくとも、あるときそれらが一つのまとまりとして意味を示すような現象を指します。
これは、キャリアについても同じことがいえます。神戸大学の金井壽宏教授は著書「キャリアの常識の嘘」で、「キャリアの意味づけやキャリアにまつわる語りの本質は後付けで後知恵でもある」と述べています。かのスティーブ・ジョブズもスタンフォード大学での有名な演説で、「将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできない。できるのは、後からつなぎ合わせることだけ。だから、われわれは今やっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない」と述べています。
誰にでもいえることだと思いますが、人がキャリアを積む過程で選んだ選択肢には、自覚的、もしくは自発的ではないものも多々あるはずです。つまり、キャリアの意味などは多くが「後付け」であり、しかも、今まさに頑張っている人にとってのキャリアの意味は、その時点では「よくわからないもの」であるということです。そう考えると、面接という場でキャリアの一貫性を明確に示せないからダメというのは早計ではないでしょうか。
「ノリが良い人」のほうが“良い”キャリアを歩んでいるという事実
また、一般的に“良い”とされるキャリアを歩むにはキャリアに対してどのような姿勢が必要かを示すさまざまな研究も、キャリアの一貫性を重視すべきかどうかの判断の参考になります。
たとえば、人事の世界では有名な理論の一つ、スタンフォード大学のクランボルツ教授による「計画された偶発性理論」(planned happenstance theory)。この理論は、実際に“良い”とされるキャリアを歩んできたビジネスパーソンを調査してわかった「事実」です。クランボルツ教授が実施した調査によると、18歳のときに考えていた職業に実際に就いている人は全体の約2%にすぎませんでした。また、個人のキャリアの8割は予想しない偶発的な事象によって決定されるとも述べています。一連の研究結果からクランボルツ教授は、「やりたい仕事に固執するよりも、むしろ判断を保留してオープンマインドであるべきだ」と主張しています。
クランボルツ教授は「計画された偶発性理論」を実践するキーワードを5つ挙げています。
好奇心
自分の思い込みにとらわれず、さまざまなことに関心を持つ持続性
一度始めたことは、ある程度結果が出るまで粘り強く取り組む(≠忍耐)楽観性
ピンチをチャンスと捉え、失敗にもくじけない柔軟性
チャンスと思えば乗り、ダメならきっぱり方向転換する冒険心
安全より、リスクを負ってでも積極的に挑戦する
上記のキーワードの解説は私の解釈です。私はこれらをまとめて「ノリが良い人」と表現しています。
こうした理論を前にすると、あまりにキャリアに一貫性のある人は、逆に「もしかしてチャンスを逃してきた(これからも逃す)人なのでは」とさえ思えてきます。さすがにそれは言いすぎかもしれませんが、一貫性がないからといってダメと言い切れない一つの根拠とならないでしょうか。
面接官は「認知的不協和」に耐え、「想像力」や「意味づけ力」を鍛える
人は個人の持つ情報(認知)の間に矛盾が生じると不快感を覚えます。これを心理学では「認知的不協和」と言い、人はできるだけその不快感を減らそうとします。ですから、面接で一貫性のないキャリアの話を聞いて、「一貫性がないからダメなんだ」と即断したくなるのも無理はありません。しかし、ここまで述べてきたように、即断するのは早計です。
人生やキャリアはとても複雑で、当人であってもこれまでのキャリアがどのような意味を持つのか、すぐにはわからないものです。ましてや他人が理解するのは困難で、スキル不足の面接官にはわからなくて当然です。しかし、人の人生に少なからぬ影響を与える面接官たるもの、「認知的不協和」がもたらす不快感に負けて軽率な評価を行ってはなりません。
面接官がすべきなのは、候補者が話す曖昧な内容だけによる判断ではなく、想像力を駆使し、「なぜ、この人はこういうキャリアを歩んできたのだろう」「なぜ、この局面でこういう判断をしたのだろう」と考え、「それはもしかすると、こういう意味があるのではないか」「当社に入ることで、この人のキャリアにこういう意味が生まれるのではないか」と意味づけてみることです。面接を通して「想像力」と「意味づけ力」を鍛えることで、候補者の人生やキャリアに隠れた意味を発見できる面接官になれるのではないでしょうか。
著者プロフィール: 曽和 利光 氏
著者プロフィール: 曽和 利光 氏
リクルート、ライフネット生命、オープンハウスと、業界も成長フェーズも異なる3社の人事を経験。現在は人事業務のコンサルティング、アウトソーシングを請け負う株式会社人材研究所の代表を務める。
編集:高梨茂(HRレビュー編集部)
編集部より:この記事はビズリーチ運営のオウンドメディア「HR review」の人気連載「ダメ面接官の10の習慣」の記事より転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。
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