トランプやサンダースが大統領ならプーチンと接近 !? --- 八幡 和郎

sanders vs trump
▲まさかの大統領就任はあるのか?(Wikipediaより、アゴラ編集部)


あの2人が大統領ならプーチンと友好路線を取るはず


日本人は、トランプやサンダースが大統領になる可能性は少ないという分析を聞くと安心するが、いまや、その可能性はかなりある。日本の政府も国民も真剣に備えるべきだと思う。外交政策についていえば、トランプとサンダースの共通点はプーチン・ロシア大統領と現在より友好的になるだろうということだ。

プーチンは、昨年12月の年次記者会見後で、トランプ氏は「非常に傑出した人物で、才能があることは疑いようがない」「彼の人徳を評価するのはわれわれではなく米国の有権者だが、彼こそが大統領選の絶対的な立役者だ」「トランプ氏は(米露の二国間)関係をこれまでとは異なるレベルに引き上げ、ロシアとより緊密で深い関係を目指すと言っている。それをわれわれが歓迎しないはずがあろうか?もちろん歓迎する」と語ったとAFP通信は伝えている。

これは、トランプが昨年の9月に、「ロシアの対シリア軍事介入をやめさせるためにどんなことをするつもりかと尋ねられ、「私はプーチンと対話していく。うまくやって行くつもりだ」「私はプーチンとうまくやって行けると思っている、他の人々ともうまくやって行く。そうすればずっと安定した世界を築けるだろう」と発言したのを受けたものだ。これに、トランプも「プーチンは私を才気溢れる人間と評した。その発言により彼が賢明な人間と分かる」と応えた。

しかし、これは意外なものでない。なぜなら、プーチンと友好関係にある西側の指導者といえば、イタリアのベルルスコーニ元首相であり、わざわざクリミアを訪問してプーチンの立場を支持した。フランスのサルコジ前大統領も、プーチンとは馬が合い、彼が率いる共和党の議員団がクリミアを訪問し、サルコジ自身もいずれ続くのでないかという噂もある。

日本も万一に備えよ


ベルルスコーニとサルコジは、日本でいえば、橋下徹・前大阪市長に少し似たスタイルと考え方で、かなり右寄りで、現実主義で、国益を厳しく追求し、理想主義や国際主義を馬鹿にしている。一方、トランプは、「移民の問題についてメルケルは悲劇的な間違いをした。問題を完全に確実に扱わなければ、ヨーロッパの終わりだし、本当の革命に直面することになる」といっている。トランプは、人権などより現実的な大国間のパワーバランスに基づく平和維持を追究すると思う。

日本はそのときは、その状況にあわせて生きねばならない。おそらく、安倍首相はトランプやプーチンとうまくやれるだろう。しかし、習近平もそれを試みるはずだ。そのときに、負けないためにはどうするか、作戦を練る必要がある。

一方、サンダースについては、外交で何がやりたいか見えてこない。というよりは、この人があまり外交や世界の将来について関心があるとも思えない。

ただ、「ロシアが米国の最大の脅威であるとは考えない」とし「最大の脅威」として北朝鮮、ロシア、イランのなかで北朝鮮を選んだ。サンダースは過去の投票行動からも極端なハト派とも思えないが、国内政策でヨーロッパ的な割には、外交政策では孤立主義的というより、あまり大きな役割を果たすつもりがなさそうだ。その反映として、ロシアの我がままにもオバマほど神経質でないようだ。

日本の民主党政権を彷彿とさせるサンダース


ところで、サンダースの国内政策はどう評価すべきか。私はアメリカの市場至上主義よりヨーロッパ的な社会福祉国家のほうが好ましと思う。その意味ではサンダースと同じだ。しかし、サンダースがアメリカ大統領になって欲しくはない。それは世界に大混乱をもたらすからだ。

サンダースが言っていることはアメリカをヨーロッパと比べてももっとも大きな政府の国にすることだ。しかし、ヨーロッパのあらゆる国より小さな政府のアメリカが大きな政府の国になるとしても、かなり時間をかけてやるべきで、それがすぐに出来るような幻想を与える公約は不可能だし大きな幻滅につながる。

その点、かつての民主党マニフェストが、将来の夢としてはそれなりに上手に出来ていたが、円滑な移行過程と財源を無視して沈没したのによく似ている。ぜひ、日本の民主党はなぜ自分たちが失敗したかサンダースに教えてやると良い。それは彼ら自身の反省と向上のためにも良い機会となろう。

もうひとつは、アメリカが移民の国という特殊性をもち、アメリカに来たらチャンスは与えられるが、自分で這い上がらねば高い生活が出来るわけでないということで、バランスが取られてきたことだ。能力のない移民にもアメリカの過去の遺産の果実を分けてくれるなら移民圧力はヨーロッパの比でなくなるのではないか。

また、急激なヨーロッパ化はアメリカン・ドリームの喪失にもつながる。そして。アメリカの混乱は日本にとっても悪夢だ。少なくとも自主防衛力を強化せざるを得ないだろうし、通商政策でも厳しいだろうから、サンダースに喝采を送っている連中は苦い思いをすることになるだろう。

shouzou
八幡和郎  評論家・歴史作家。徳島文理大学大学院教授。
滋賀県大津市出身。東京大学法学部を経て1975年通商産業省入省。入省後官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。通産省大臣官房法令審査委員、通商政策局北西アジア課長、官房情報管理課長などを歴任し、1997年退官。2004年より徳島文理大学大学院教授。著書に『歴代総理の通信簿』(PHP文庫)『地方維新vs.土着権力 〈47都道府県〉政治地図』(文春新書)『吉田松陰名言集 思えば得るあり学べば為すあり』(宝島SUGOI文庫)など多数。


編集部より;この原稿は八幡和郎氏のFacebook投稿にご本人が加筆、アゴラに寄稿いただました。心より御礼申し上げます。