2016年も2月に入り、落ち着いた日常をおくることができると思っていましたが、国会が開催され、政治状況も刻々と変化し、様々な問題や話題に事欠くことがありません。しかしながら、そのような政治の出来事も、ある種、今夏に行われる参議院選挙や同日で行われると噂されている総選挙を睨んだものでもあるともいえます。
今回は、その参議院選挙で初めて行われることが濃厚となっている18歳選挙権に関して、そして新たな有権者となる10代有権者に関して、政治への意識を読み解いていこうと思います。実は、この記事を書くキッカケとなったのは、あまり話題になっていませんが、NHKが初めて10代向けの政治への意識に関する世論調査を行ったという1月25日のニュースです。
NHKでは、新たに選挙権を得ることになる10代の男女を対象に、初めて世論調査を行いました。調査結果は興味深いものとなりました。新たに有権者となる、およそ240万人の若者は、どのように政治と向き合おうとしているのか?今の政治に新しい息吹を吹き込むきっかけとなるのか?今を生きる18歳・19歳の本音は?http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2016_0125.html
というように、NHKとしても、18・19歳の本音を探るキッカケにしたいという側面が分かります。
では具体的には、どのような調査結果となり、NHKはどのように伝えるのでしょうか?少し紐解いていきたいと思います。
日本の将来と自分の幸せは別物?
NHKの記事では、「日本の将来は明るいかどうか」を聞いたところ、「明るい」と答えた人は38.4%で、逆に「思わない」と答えたのは60.9%だったようです。では、将来の展望としての自分の幸せに関して、「20年後は幸せだと思うか」との質問に対して、74.5%が幸せになっていると思うと答えています。そしてNHK調査では、調査対象となっている18・19歳が生れて現在に至るまでの事故・事件や時代背景などを引き合いにしつつ、「日本の所得格差は大きすぎるか」との質問で「思う」が73.3%、「思わない」が25.1%との結果から日本の所得格差が大きすぎると思っている若者が多いと分析し、社会保障と税負担の関係についても「年金や介護などの社会保障が充実するなら、税負担が今より増えてもよい」と答えたのが63.1%という調査結果より、高負担高福祉を求める傾向を分析しています。
しかしながら、この結果は18・19歳に顕著に見られる結果なのでしょうか?
例えば、日本と諸外国の若者意識の分析のために内閣府が行った「平成25年度 我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」では、平成25年当時13歳から29歳まで(現在の年齢では、約17歳から31歳まで)の若者を対象に同じような質問で、「自国の将来は明るいと思いますか」で「明るい」が28.7%、「暗い」が54.2%で、また「自分の将来について明るい希望を持っていますか」では、「希望がある」が61.6%、「希望がない」が38.3%となっています。
そして、複数回答方式での「どのようなことが自国の社会で問題だと思いますか」との質問では、「貧富の格差がありすぎる」が21.1%で諸外国と比べて低い値を示しています。最も高い値は47.7%の「就職が難しく,失業も多い」で、NHK調査でも一番不安に思うことが「就職」だったことからも、実際に格差を感じる部分というのは少なくむしろ身近な不安感によって安定を望むということかもしれません。
このNHK調査と内閣府調査の比較を見ても分かる通り、18・19歳だけの意識というよりも30歳前の若者全体に生活への不安感はあるものの現状では満足しているという共通的なムードみたいなものがこのような結果を生み出しているのかもしれません。
若者は、政治がわからない?参院選の投票率は・・・?
社会や将来に対しての意識を分析していますが、ここから政治についての18・19歳の分析が行われます。
まず選挙の仕組みやルールの理解度が50%に充たなかったことと、「自分が選挙で投票することに、戸惑いや不安はあるか」であると回答した約50%、そしてその中で最も多く理由として挙げられた「政治についてよくわからないから」の36%、次点の「どの政党や候補者に投票すべきかわからないから」の30%を示し、政治や政党との距離感が投票への戸惑いや不安につながっていると分析しています。
しかし、NHK調査の中で政治に対して関心があると回答しているのは52.4%ですが、「あなたの生活に、政治はどの程度関係があると思いますか」では、「関係がある」という回答が78.7%。また「来年夏の参議院選挙で投票に行きますか」という直接的な質問については、60.7%が必ず行く、行くつもりでいると選挙に対してポジティブな反応を示しています。
これはおそらく、今までも20歳になった後の最初の選挙に対しての漠然として不安感と近いもので、距離感の問題よりも政治や選挙に対する重要性は感じているけど「初めて選挙に行くって、かしこまった感じで不安…」という初体験への戸惑いってことではないでしょうか?
自分たちのことを振り返って考えてみても、20歳になったら選挙権が与えられます!選挙に行ってください!みたいに、ロクに勉強や教わっていないのに、いきなり目の前に政治や選挙があらわれました。その時には、初めての選挙、投票ってことでワクワク感とともに漠然とした不安があったのではないでしょうか。
政治と有権者の関係性を考えるためのツールとしての若者調査や18・19歳調査
政治と有権者、特に若者との関係性を考えるために、このような調査は非常に意義があると思います。例えば、NHK調査では分析が行われていませんが、国民と選挙や政治のかかわり合いに関して
A:自分が支持している政党や候補者が勝つ見込みがないときには、投票しても無駄である
B:自分一人くらい投票しなくてもかまわない
C:国民には政府が行うことに対して、それを左右する力はない
という質問があります。
A、B、Cは政治的有効性感覚という言葉であらわされるような自分の行動が政治に対して影響を与えているかを測っている質問です。
しかし、AとBは選挙や投票といった実際の自分の行動に対する評価でありますが、Cは政治に直接的な影響があるかの評価という少し次元が高くなっている質問です。この結果を見ると、Aで「そう思わない」が60.5%、Bでの「そう思わない」は66.8%というように、半数以上は投票という行動の有用性があるとし、行動すべきであると評価しています。直接的な影響の評価であるCでは「そう思わない」が49.9%となっており、A、Bと比べて低い値だなと思うかもしれません。
しかし、「明るい選挙推進協会」が平成22年に行った若者(16~29歳)への調査や、有権者全体への調査を見ると、Cと同じ質問項目で、「そう思わない」が22.5%(有権者全体は30.1%)と明確な差があることが分かります。
(参考URL:http://www.akaruisenkyo.or.jp/wp/wp-content/uploads/2011/01/wakamono.pdf)
これはある意味で、18歳選挙権が実施されることとなったという時代的な影響もあるかも分かりませんが、今まで直接的に政治に接することのなかった若年層の方が政治への有効性感覚が高い、つまり政治に対して関心や自分の行動で何かが変わるかもしれないと思っていた若者も、年齢を重ねることで政治と関わりが深まっていくにつれ、自分の行動では何も変わらないかもしれないといった無力感から、政治的有効性感覚を下げてしまうということを示しているのかもしれません。本当に、このような状況であったら社会での政治と有権者の関わり方としては大変不幸なことかもしれません。
ここまで見てきました18・19歳という特定の層を対象とした調査は、非常に意義深いものです。しかし本当に18・19歳における特別な政治意識があるのかというのを分析するのは非常に難しいことだと思います。しかし将来的に日本社会や政治を担っていく世代に対して、早い段階でどのような施策を行うべきかを考えるためにも必要なことだと思います。
渋谷壮紀
1988年鳥取県生まれ。東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程在学中。専攻は政治意識・行動分析、実験政治学。研究テーマは政党公約分析、有権者選好のマクロ分析、熟議民主主義の実証研究など。学部時代にWebサービス開発の経験あり。
編集部より:この記事は、選挙ドットコム 2016年2月20日の記事を転載させていただきました(タイトル改稿)。オリジナル原稿をお読みになりたい方は選挙ドットコムをご覧ください。