1ミリシーベルトって何?

丸川珠代環境相が「除染基準の1ミリシーベルトには科学的根拠がない」と発言し、批判を浴びて謝罪した問題は、笑い話ではすみません。原発事故から5年近くたって、この程度の人物が環境相をやっているようでは、復興はとても進まないでしょう。

たぶん丸川さんは「シーベルト」の意味も知らないと思うので、説明しておきましょう。これは放射線による生物の被曝量を示す単位で、ICRP(国際放射線防護委員会)ではその防護基準を決めています。「年間1ミリシーベルト」というのは、その1990年勧告で、「線量限度の勧告値」として決められたものです。

したがって科学的根拠はあるのですが、これは何も起こっていない「平時」に、行為の結果もたらされる線量の増加についての目安です。つまり除染によって線量を1ミリシーベルト以上ふやすことは望ましくない、といっているわけです。

そして2007年の勧告では、ICRPは「非常状況での避難参考レベル」として年間1~20ミリシーベルトを基準とし、日本政府もこれに従って「20ミリシーベルト以下は帰宅してよい」という基準を出しています。これも「参考レベル」であり、それ以上だと健康に影響が出るという根拠はありません。

しかし事故の直後には、いろいろな情報が乱れ飛んだため民主党政権は混乱し、当時の細野豪志環境相が「1ミリシーベルト」といったり「5ミリシーベルト」といったりしましたが、いまだに除染の線量についての法的な基準はありません。そこで市町村が過剰に安全を見込んで1ミリシーベルトを基準に除染しているわけです。


しかし1ミリシーベルトで健康への影響が出るという科学的根拠はありません。上の図は世界各地の年間線量を示したものですが、日本平均の約2ミリシーベルトに対して、北欧では4.5ミリシーベルトと、2.5ミリも違いますが、北欧で日本より発がん率が高いという事実はありません。

だから丸川さんの「科学的根拠がない」という発言は、「放射線医学では根拠がない」という意味では正しいのです。それなのに全面的に撤回してしまったのでは、除染についての冷静な議論がますますむずかしくなります。

まず環境省が除染の線量基準についての法律を定め、それを超える市町村の除染については国は費用を負担しないことを明らかにし、被災者が国の基準に従って帰宅するよう勧告すべきです。

23日(火)夜8時からの「言論アリーナ」では、「除染、復興、福島現地からの声」と題して、地元と専門家の話を聞きます。