正直なところ、黒田総裁のマイナス金利政策は不評であります。国内の反対強硬派は金融機関ですが、専門家も含め、様々な意見が飛び交っています。それにも増して不評な声は海外からも多いようで、黒田総裁の評価と手腕に疑問符すらつき始めているとの報道もありました。
私のところにもカナダでモーゲージなどを扱っている専門家から「日本のマイナス金利と経済見通しについてこんなレポートがあるのだが、君の意見は?」と聞かれ、読んでみるとまるでオカルトのような超悲観論シナリオで数年後には日本の経済は崩壊すると書かれていました。北朝鮮ですら崩壊していないのに日本が数年後に崩壊する意味が分かりません。(北朝鮮と日本の共通点は国の対外負債が少ないことであります。外国人による日本の国債所有比率は15年Q3ベースでわずか5.1%です。)
さて、その黒田総裁は3月の定時政策会議で政策金利を据え置きとしました。これは予定通りで問題ないのですが、総裁にも一定のプレッシャーがあるようでその胆力を試されたのが会議後の記者会見であります。そこで述べられたのが「貸し出しの基準金利や住宅ローン金利が低下し、金利面で政策効果が表れている。今後は実体経済や物価面にも波及し、評価もポジティブ(肯定的)に定まる」(日経より)となっています。
確かに住宅ローンの借り換えは増えているようですし、法人向け貸し出し需要もあるにはあるでしょう。私も邦銀から事業資金は借りていますが、Tibor(東京の銀行間取引金利)連動型なので利率は下がってきています。しかし金利が下がっているからといって不動産物件をもっと買おうという気にならないのは事業は10年後20年後をみなくてはいけないからで、その時の想定がしにくいのが日本のビジネスなのであります。
つまり事業家にとって金利水準は二次的要因であり、まずはこんなビジネスを展開したいというビジョンが先に来るべきものなのです。いま、これに投資すれば5年後、10年後にこんなバラ色になるというピクチャーが描けなければ誰も事業を始めません。事業を始めなければお金は借りません。そして銀行は与信のハードルがやっぱり高いのであります。最近、ある銀行で聞いたのですが、不動産向け融資は更にハードルが上がったと伺いました。つまり借りにくくなっているということです。日銀はハードルを下げ、民間銀行は担保などでハードルを上げる訳です。これでは世話が無い話ですね。
では個人ではどうでしょうか?貯蓄から投資へ、と新年になるたびに聞こえてくる宣伝文句です。NISAをみると15年12月末で確かに口座数、貯蓄額は増えていますが、60歳代から上が全体の58%を占めており、私には定期預金からの乗り換え組にしか思えないのです。アクティブ世代と称する20代から50代は給与がどんどん上がるわけでもなく、消費税が時折引き上げられるなかで投資=リスクマネーに投じるならば金利が数円しかつかない普通預金の方がよいと考えてもおかしくないでしょう。また、サラリーマンを退職した方々も平均余命が伸びる中、もらった退職金をボラティリティの高い株に突っ込むなんてとてもできないと思うかもしれません。
株の世界も一部上場の有名企業なら大丈夫と思っていた時代は過ぎました。東京電力、東芝、シャープ…散々な株価になっています。毎日、株価チェックをするようなまめな人はいいですが、時たまにしか見ないような方が過半だと思われる中、下がった場合そういう方々がパニックを起こすのです。私だって株を買った瞬間下がりだして一日で数%下がってしまうことは往々にしておきますが、「下がっても知れている」「大底は誰も買えない」「頭と尻尾はくれてやれ」という自己納得できる人はそうそういないものです。
日本人は血液型Aが39%、O型が30%というのは周知だと思います。このA型、O型の特性として堅実、安全志向であってリスクを抱えるのはとても苦手であります。それ故に投資も起業も怖くてできないという一種の日本人独特の行動規範があるかと思います。これを突然、海外で出来るのだから日本でも出来るはずだ、と強要するには無理が生じるというものでしょう。
マイナス金利とは面を思いっきりひっぱたかれて「目を覚ませ、もう、お金を寝かせておく時代ではない」と言われているようなものなのですが、「日本人、そんなに急に変れない」であります。
株で何年も儲け続けられる人はそうそういません。松井証券発表の信用の売買の利益率は売り方も買い方もほぼ常にマイナスです。悪い時ですと買い方がマイナス15%ぐらいまで落ち込むのですが、単純に考えればこれはだれも儲けていないようにも見えます。(事実は違いますが。)株で損したといえば奥さんがギャーギャー騒ぐわけで旦那さんとしては二重に頭が痛い思いをするこの事実の意味合いを捉えることは重要だと思います。とはいえ、日銀の政策委員に血液型の話は出来ないでしょうけれど。
では今日はこのぐらいで。
岡本 裕明「外から見る日本、見られる日本人」16年3月16日付