主要産油国が「生産凍結」を協議する理由?

岩瀬 昇

原油価格のさらなる下落を阻止するため、OPECおよび非OPECの主要産油国による協議は、3月20日のモスクワ会議が流れたが4月17日にドーハで開催されることになった、と主要紙が伝えている。2月15日に行われたドーハ会議のフォローアップだ。

2月15日のドーハ会議では、OPECの盟主サウジアラビアと非OPECのチャンピオン・ロシアが、カタールとベネズエラ同席のもと、条件付きで「1月生産水準での凍結」を基本合意した。だが、直後のテヘラン会議でイランの同意が得られず、「生産凍結」は実現しそうにない、との見方が広がった。その後も関係国は努力を継続し、前述のような展開となっているようだ。

この間、ブレント原油価格は40ドル前後を行ったり来たりしている。

経済制裁が解かれて、生産量も輸出量も増加しようとしているイランは、その意気込みにも関わらず「すぐに50万B/D増産」の目標は実現できていない。速報値では、2月平均で約22万B/D増えた程度らしい。3月にもう20~30万B/D増やせれば、第一段階の増産目標はほぼ達成できることになる。第二段階の追加50万B/D増産は、そもそも時間がかかると見られていたので、イランも「3月水準の凍結」なら合意するかもしれない。サウジのつけた「条件」が充足される可能性もあるというわけだ。

つまり「生産凍結」合意がまったく不可能なわけではない。

だが、大事なのは、なぜロシアがこの協議を主導しているのか、という点にある、と筆者は考えている。

理由は、ロシアの生産余剰能力がほぼなくなったから、ではないだろうか。

余剰生産能力とは、米EIA(エネルギー情報局)の定義では「30日以内に増産可能で、90日間以上維持できる生産能力」となっている。IEA(国際エネルギー機関)は「3ヶ月以内に増産可能で、当分の間維持できる生産能力」としている。いずれにせよ、ある短期間に実現できて、それからしばらくは維持できる能力、という意味だ。

非OPEC産油国は、基本的には民間主導で原油生産が行われているため、余剰生産能力というものは存在しない。初期の設備投資に巨額の資金がかかる石油開発事業では、投資をして作り上げた生産能力を使用しないことは、「株主訴訟」を起こされても仕方がないほどの「無駄な経営」そのものとみなされるからだ。

またOPEC産油国のほとんどの国は、財政上の理由から能力いっぱいの生産を継続している。政治的な理由で生産能力を100%使用できなかったイランを除けば、サウジのみが余剰生産能力を保持しているのが実態だ。

もちろん、経済性が合う限り、つまり小規模の追加投資で済むのであれば、民間企業も産油国国営石油も、生産能力を極力増強しようとする。

2014年11月にOPECが「生産上限削減」を拒否し、価格上昇よりもマーケットシェア獲得を目指したとき、各国のシェア争い、すなわち生産能力拡大競争は始まっていたとみていいだろう。

ロシアもこの競争には参加していたはずだ。

EIAは、リーマンショック前の、2003年から2008年にかけての価格高騰を分析し、OPECの余剰生産能力が極端に小さくなっていたとし、一般的には余剰生産能力が250万B/D以下の場合には市況はタイトになる、と分析している。(”Energy and Financial Markets Overview; Crude Oil Price Formation”, May 5, 2011)

また、OPECの余剰生産能力は、2015年は160万B/Dだったが、2016年は180万B/Dに、2017年には160万B/Dになるだろうと予測している(”Short Term Energy Outlook, March 2016”)。

一方、IEAは2月月報で、1月の生産実績との対比で、OPECの余剰生産能力は298万B/Dで、ほぼサウジ(205万B/D)とイラン(61万B/D)にしかない、としている(残りの11カ国で32万B/D)。

つまり、イランが第一段階の増産を実現した後には、余剰生産能力は、サウジ以外には存在しない状態になりそうなのだ。

したがって、リバランス(供給と需要が均衡すること)が実現するまでにはまだ時間がかかるが、価格は1月水準以下には下がりそうもない、ということは言えるのではなかろうか。

 


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年3月17日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。