日経電子版のトップに同一労働、同一賃金に関する記事が出ています。この仕組み自体はパートでも正社員でも同じ労働なら同じ賃金を貰うという至極まっとうな考え方なのですが、私は全く別のことを想像してしまいました。それは古い慣習による同一労働にも拘わらず高いものを払わせられている例であります。
その一つがレストランのチップ。良いサービスに心付けを差し上げるのにも限界があります。それなのに飲食代の15%とか20%といった基準を作ったのは古い慣習を更に悪化させたものだと思います。例えば50ドルのワインと200ドルのワインを注文した時を比べてみましょう。単純計算で50ドルのワインを頼んだ際のチップは15%なら7.50ドルです。ところが200ドルになると30ドルに跳ね上がります。このチップはサーバーさんの懐に入るものですが、50ドルのワインと200ドルのワインを持ってきてもらう違いは何でしょうか?特に思いつきません。そういう意味では同一労働なのにより高い費用を払わなくてはいけない悪い慣例が残っているともいえます。
私は200ドルのワインを注文してもらうことで得をするのは店なのですからチップの差額は店が負担すればよいと思います。同じワインを取るのに高いものを注文させることを英語でUp Sellingと言います。日本語は存在しないかもしれません。ファーストフードでハンバーガーを注文してドリンクはいかがですか、ポテトはいかがですか、というのはアップセリングの典型です。顧客からすればアップセリングを勧められてお金を余計に使っているのに更にその口利きの相手に褒美まで差し上げるというのは「盗人に追い銭」に近いものがあります。
もう一つの悪い商慣習は不動産業であります。これは日本も北米も同じなのですが、なぜ、手数料は売買価格で決まるのか、不思議で仕方がありません。日本の場合は400万円以上なら売り方、買い方共に3%プラス6万円です。ここカナダBC州の場合、10万ドル以上の場合、大手不動産業者ならば売り方のみに7000ドルプラス10万ドルを超えた部分に3%です。この計算からすると日本もカナダも似たり寄ったりの不動産手数料がかかるということになります。但し、カナダは売り主だけにかかる点が違います。(買主にはかからないのですが、実質的にはその手数料を含めた金額を買主として払うという考え方ともいえますが。)
不動産屋にとって30万ドルの物件も1ミリオンドルの物件も手間は変わりません。日本でも同様でしょう。なのに高い物件になればなるほど多くの手数料を払わねばならないというのは間尺に合いません。但し、日本では最近、取引金額にかかわらず均一料金制度を取る業者もチラホラ出てきています。
また業界の悪い慣例にメスを入れたのがソニー不動産で「おうちダイレクト」で手数料に関しては業界の両手取引を片手(買主からのみ)に変えた点が革命であります。が、残念なことに大手不動産業界がこぞってこのやり方に反発、ソニー不動産は孤独な戦いを余儀なくさせられています。
私の予感はあと5年すれば不動産業界の手数料体型は一気に変わると思っています。同一労働にもかかわらず高い手数料ビジネスは世の中の流れに反しています。特にその傾向が強くなったのがネットの時代になってからであります。証券会社の売買手数料体型はずいぶん前に崩壊し、今は0.1%程度の料率になっています。同一労働同一価格ではありませんが、極端に安くなったことには変わりなく、松井証券のように上限設定もあります。
不動産屋の手数料がなぜ高いか、といえば昔の商慣習が残っているからです。不動産はかつて「千三つ」と言われ、1000件で3つしか決まらないという非効率の極みからこのような不動産手数料が業法で決まっているのです。但しそれは手数料の「上限」という表現になっています。今まで業界内の熾烈なシェア争いなどの戦いがあるにもかかわらず、手数料については誰も競争してこなかったという悪癖であります。
今や、ネットで物件を探す時代です。「千三つ」どころか良い物件なら問い合わせ数件に一つ成約する時代です。ここバンクーバーなどは一つの物件に10以上のオファーが瞬時に集まり、数日以内に決まることはごく普通です。不動産屋にとってはリスティングを取れさえすればもうお金が入ってきたような濡れ手に粟状態にあると言えましょう。
「同一労働、同一賃金」が社内の話ならば「同一労働、同一価格」は価格設定という社外向けの新たなコンセプトでしょう。これも価格破壊の一つとなり、見方を変えればデフレ誘導なのかもしれません。が、非効率の淘汰は当然あるべきで、顧客からすれば支払うお金の代償は何か、をきちんと提供する時代になったとも言えそうです。
では今日はこのぐらいで。
岡本裕明 ブログ外から見る日本、見られる日本人 3月21日付より