グーグルやアマゾン、フェイスブックといった企業は、それまでユーザーが情報を受信する一方だったウェブの世界を、ユーザーが自ら情報を発信し、共有し、また、自らコンテンツをつくることのできる世界へと変えた。2005年ころから、人々はこうした変化のことを、第二世代というような意味で「Web2.0」と呼ぶようになった。これになぞらえて、近年の日本のNPO業界の目覚ましい発展を、「NPO2.0」と呼ぶことはできないだろうか。
NPOとは、Non-Profit Organizationの略で日本語だと「非営利組織」であり、様々な社会貢献活動を行うことを目的とする。こう言うと、NPOは儲けてはいけないと勘違いする人が多い。しかしそうではなく、儲けてもよいが株式会社のように儲けを株主に分配するのではなく、次の社会貢献活動に充てなければならない。
日本においてNPOという言葉や制度が普及し始めたのは、そう昔のことではない。1995年に阪神淡路大震災が起こり、ボランティア活動が活発になって、この年は「ボランティア元年」と呼ばれた。その後1998年にNPO法が成立し、ボランティア団体・市民活動団体が法人格を得られるようになった。この時期が日本のNPOの萌芽期であり、いうならば「NPO1.0」である。その後NPOの数は年々増加し、また、2010年頃になるとNPO業界に様々な変化が起こった(内閣府HP)。
第一に、カリスマ性や発信力のあるリーダーが現れた。保育事業を行うNPOフローレンスの駒崎弘樹代表はその筆頭だろう。大学在学時にITベンチャーを経営していたという異色の経歴を持ち、ブログやツイッターといった現代的なメディアを巧みに駆使しながら、保育分野のみならず様々な社会問題に取り組んでいる。NPO関係者と話していると、駒崎氏の著書『「社会を変える」を仕事にする』を読んでNPOに興味を持ったという話をよく聞く(駒崎氏については私のブログの『社会不満足:乙武洋匡 対談』を参照)。
また、高度なビジネス・スキルを持った人材もNPO業界に参入するようになった。例えば、新興国のNPOに日本企業の社員を派遣する事業を行うクロスフィールズというNPOがある。創業者の小沼大地氏はマッキンゼーに、共同創業者の松島由佳氏はボストン・コンサルティング・グループに勤めていた経歴を持つ。こうして発展を遂げていった日本のNPOは、東日本大震災の時にも活躍した。2012年にはNPO法が改正され、NPOの税制優遇制度が改善されるなどして、制度的にもNPO業界に追い風が吹いた。
多くの人たちの血のにじむような努力で、ここまでNPOが発展してきたわけだが、様々な課題も残っている。NPO関係者と話していると給与の低さを嘆く人は多いし、今月就活が解禁されて多くの学生が就職先に悩んでいるだろうが、NPOへの就職という選択をする学生はまだまだ多くないだろう。一方でアメリカの2010年の就職先人気ランキングでは、教育支援NPOのTeach For Americaが、アップルやグーグルを抑えて1位に輝いた。
高度経済成長はとうの昔に終わり、政府は深刻な財政難に陥っている。経済成長や政府による対応によって社会問題をごまかせる時代は終わったのである。また、人々の生き方は多様化し、人々の抱える問題も多様化している。多様なニーズに対して、行政や政治が全て応えるのは不可能である。「NPO2.0」に満足することなく、今後「NPO3.0」や「NPO4.0」をつくりだしていかなくてはならない。