企業の成長って何だろうか?

カナダにおいて私の周りでこのところ資産や企業の売買が進んでいます。現在進行形のところもいくつかあり、新陳代謝が進んでいます。買うところは大資本か中国企業、売るのは老舗やファミリー企業、更には大企業の非コア部門であります。私の事業にも一部影響が出そうですが、この新陳代謝の先が見えにくいのが今回の特徴であります。

売る側にとっては思ったより高く売れるケースが多いようで「嬉しい誤算の報告」を携えて上司や親会社に凱旋の折には、「よくやった」と褒め上げらえるのだろうと思います。つまり、溢れたマネーの一部はこのような企業売買にのれん代として上乗せされているケースも多く、買った側は更に大型の投資を施し、企業や資産価値を高め、顧客にはより高い価格設定をするという流れが見て取れます。

世界的ホテルチェーンでシェラトンやウェスティンを擁するスターウッド社を巡る買収合戦は中国の安邦保険が突如、戦線離脱したことからマリオットが戦勝品を手にすることとなりました。安邦保険がなぜ、急にギブアップしたのか、それも安邦がリーチをかけている段階での離脱でしたのでその真意を巡り様々なうわさが飛び交っています。

一部には資金手当てがつかなかったのではないかとも報じられていますし、一部には中国政府から待ったがかかったというのもあります。どちらにせよ、安邦保険がスターウッドを購入してもコントロールし、高い利益を生み出し、成長し続けることは難しかったと思いますので企業価値が遺棄せずに済んだという意味ではマリオットの手に落ちて良かったと個人的にも安堵しています。

企業の成長には一般に自社事業の販売力や店舗を増やすことで着実に伸ばしていく方法と買収による短期間の成長方法があります。但し、買収を伴う場合、買収前の事業規模がそのまま買収後に引き継がれるかどうかは買収の仕方によります。往々にして人材が退職し、払底していたり、あるべき技術が残っていない場合もあります。いわゆる「もぬけの殻」です。

この2、30年のトレンドでもある買収による企業成長は確かに短時間で売り上げや利益が増大する圧倒的効果があります。これはいかにも北米的な企業戦略で短期間に株価を上げて経営者が多額の報酬を得るシナリオに一致します。安邦保険がギブアップした一つの理由は想像するに買収しても経営する能力に疑問符がついたことも大いにあったと思います。

ではシャープはどうでしょうか?台湾企業に買収されるとシャープが持つ技術、特にIGZOのような技術流出を問題にしている報道もありました。私は以前から指摘しているように郭台銘董事長はそんなものには期待していないはずで多分、完全なリフォーメーションを図る為の布石だと思っています。ターゲットは有機EL工場の新設でしょう。それからシャープの隠れた能力は白物家電にあるのですが、郭董事長はそちらの方が欲しくてしょうがなかったのです。だからGEの白物買収にも手を上げていたのです。白物はIoTの時代到来で製品の一新が期待できるところに意味があるとみています。

世界は正に弱肉強食と化しているのですが、日本企業には奇妙な落ち着きがあります。先日のパナソニックの津賀社長の「成長否定発言」は翌日の株価が12%も下落する災難に見舞われました。トヨタ自動車も最近は販売台数の上乗せより利益アップなど足腰の強化に走っています。経営環境が不安定で先行きが見えにくい時代だからこそ、本業を重視し、守るべきものを守るという姿勢とも言えるかもしれません。

これはバブル崩壊を経験した日本企業だからこそ分かっているステップなのでしょう。しかし、それが癖になると前に向いて攻め上げる激しさを忘れてしまうことにもつながります。日本企業は妙に大人の態度を示すようになりましたが、時にはやんちゃをすることも忘れないでほしいと思います。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 4月11日付より