アメリカが企業の節税対策にNOを突き付けています。アメリカの会社でアメリカで儲けているはずなのに、納税の所在地は全く関係ない第三国。そして、その国では人口も国土も小さいこともあり、圧倒的においしい魅力で世界有数の企業を手招きしています。
今回、世のボイスにギブアップしたケースとなったのが製薬大手、ファイザーとアラガンの合併でした。アメリカのファイザーがアイルランドのアラガンと合併し、規模的には吸収合併に近いはずのアラガンの所在地、アイルランドに合併後の本社を移す、というシナリオでした。ファイザーは業界2位、アラガンは19位ですが、その合併のマグニチュードは歴代2位の1600億ドル(17兆円強)というものでした。アイルランドは租税回避地として知られており、ファイザーの事業から生まれる税金はアメリカに落ちなくなります。これが正々堂々と行われてよいのか、という世論の声が合併を阻止したとも言えるでしょう。
同様の話はアメリカ企業にはごろごろしており、スターバックスやアップルなど主要企業の節税問題が話題に上がっていましたが、一方で節税対策も施せないCFO(財務担当責任者)は無能扱いされるのがオチであるのもアメリカの経営スタイルだったと思います。
以前、私が勤めていた日本の会社が巨大なアメリカ企業を買収した際、業務上の縁があり、アメリカ側経営陣のトップとさまざまな件で仕事のやり取りがありました。その際、財務担当の責任者(CFO)らとの話は常に「税金」であり、子会社等の租税を如何に回避し、本体を含めた税務対策プランをつくるといった話が非常に色濃かったのをよく覚えています。その為に辣腕会計士や「コンサルタント」を雇い、異常に高いフィーを払い、会議室の黒板にフローチャートのごとく資金の流れを書き込みながらああでもない、こうでもないと延々と議論していました。
この体質は今でも変わっていないはずです。また、個人に於いても収入が多くなればなるほど節税対策を講じる人は多く、アメリカの富裕者の実効税率があり得ないほど低いことはよく耳にします。バフェット氏が以前、自分の払っている所得税率が自分の秘書より低いと発言し、話題になったこともありますが、現在の税制が複雑怪奇故に賢い人ほど節税対策を施しやすいとも言えるのです。
日本でも相続税逃れの為にありとあらゆる手段が考えられ、挙句の果てに海外に「持ち逃げ」する指南書もありますが、日本の精鋭なる課税部隊が相続を通じて故人の墓場で最終的に抑え込むという映画並みのドラマを繰り広げることもあります。
なぜ、節税は煙たがられるのか、答えは簡単です。節税のメリットを持つのは税金をたくさん払っている富裕層や儲かっている企業だからであります。所得が少なかったり、赤字であれば当然、節税以前に税金を払っていないのですからそれ以上節約することは不可能です。言い換えれば庶民より稼いでいるのだからその分、税金ぐらい払ったらどうだ、という庶民のボイスのようにも聞こえます。
一方、アメリカは寄付金が多いことでも知られています。大学やコミュニティ、医療、政治からNPOの活動まであらゆる社会的活動に多くの富裕層は惜しげもなく資金を提供します。かたや節税、かたや多額の寄付という二律背反するこの行動もある程度説明できます。寄付をすれば税額控除が取れるため、単に税務当局に決められた額を納税するより自分が何らかの形で社会貢献でき、それが功績として残る方が気持ちがよいでしょう。つまり寄付は資金の使途がある程度見えるのです。一方、税務当局に払う税額はどのように使われるか非常に細分化され、目に見えにくいということもあるでしょう。
言い換えれば税金は払い手に取って最も興奮しないやむを得ない支払なのです。例えば日本のふるさと納税は確かにおまけのグッズがついてくるという魅力もありますが、その特定のエリアを応援するという意味合いもあるでしょう。
ここまで書くと私の言いたいことはお分かりいただけると思いますが、税金も魅力ある払い方を生み出せばよい、と言えないでしょうか?これなら払いたくなると思わせる税金です。次回の消費税の引き上げについてはその使途を社会保障費関係にフォーカスするようですが、これでは払い手にまだイメージが浮かびにくい気がします。以前、ガソリンスタンドにあなたの払うガソリン税で道路を直します、とステッカーが貼ってあったと思うのですが、こういうダイレクトなメッセージはなるほどね、と思ってしまうのです。
税金を払う側は客、税金を徴収する側は店だと置き換えた時、この税金でどんなメリットがあるのか、それを提示できるような民間の発想がないと節税や脱税とのいたちごっこは永久に続く気がいたします。
では今日はこのぐらいで。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 4月12日付より