TPP先送りのニュースが目立っていますが、これは先送りでしょうか、それとも審議拒否でしょうか。今回は野党が貴重な審議時間をムダに奪っているようにしか見えません。
「TPP先送り」と表記するとマズいことを先延ばししているかのような錯覚を与えますが、正式に表記するなら、「野党の審議拒否によって日程が厳しくなったので成立見送りを示唆している」のが実情だと思います。
●審議拒否の理由としての違和感
まず憲法では、国家間の条約締結権は内閣にあり国会の承認を要するとされています。既にTPPは国会承認を要するのみであり条約内容のプロセスについて問う段階ではありません。合意内容は公表されていますからそれに基づいて議論すればよい話です。交渉結果(今回はTPP条約締結)の承認・非承認の判断を委ねているにすぎません。国会の勢力は圧倒的に与党多数ですからほぼ間違いなく承認されます。承認されれば、条約締結が承認されたことになります。
黒塗りの文書や、西川委員長の本の中身を論点とするのもムリがあります。安部首相は「外交交渉の経緯は相手国との信頼関係にかかわる話であり、一方的に公表すれば、その国との外交関係は傷つく」と指摘していますがこれは正論です。本の中身についてもゲラ段階の情報にどれほどの意味があるのか不明瞭です。
野党(民進党)の指摘は「政府のTPP対策本部職員らが西川氏に情報提供などで協力していれば守秘義務に反する」(産経新聞)というものです。そこを論点にするのなら、西川委員長に「どのような経路でTPP交渉経緯の情報を得たのか」を追求すればよいだけです。
「政府から漏えいした」という証言を得られればさらに追求することが可能になります。その場合でも、漏えいの事実のみの問題ですから交渉経緯を追求するにはムリが生じます。しかし証言を得られる可能性は低いでしょう。ゲラなどは個人的な問題ですから少々的外れではないかと思います。
●政府が情報開示をしたら審議ができなくなる
仮に政府がTPP交渉経緯を野党(民進党)に開示したとします。開示の前提として、国家間の信頼に関する情報ですから政党間でNDA(守秘義務契約)を締結することになるでしょう。国益を左右する情報ですから当然です。
しかし、そうなれば委員会でTPPの議論自体ができなくなります。「その質問はNDAに抵触するから回答できない」となれば何も審議できずに進みません。現時点では、政府は情報開示をしませんから、審議拒否をすれば委員会は空転して審議時間は減るのみです。
いま政治には議論すべき課題が山積しています。国民は生活に密着した議論や、実態を照射した骨太な議論を展開してもらいたいと考えているはずです。野党には野党の役割があります。選挙を視野にいれれば争点をより明確する必要性があります。審議拒否や批判だけでは存在意義はありません。当然、支持を得ることも難しくなります。
尾藤克之
コラムニスト/経営コンサルタント。議員秘書、コンサルティング会社、IT系上場企業等の役員を経て現職。著書に『ドロのかぶり方』(マイナビ)『キーパーソンを味方につける技術』(ダイヤモンド社)など多数。
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