4月17日(日)3:30に日経電子版に掲載された掲題記事は、要点を見事にまとめあげており、一読の価値がある。論点についてはほぼ首肯できる内容だ。ぜひお読み戴きたい。
だが、なぜ「増産凍結」なのか。英文記事では、表記はすべて「生産凍結、production or output freeze」なのに、本社コラムニストの脇氏まで「増産凍結」というのはなぜなのだろか。これが「新聞」の「用語」の使い方なのだろうか?
背後に、OPECは、いや産油国はすべて「増産」を目指している、という認識があるのだろうか。そうだとすると、その認識が大事な視点を欠落させている。
みごとに現状を分析しきっているコラムだが、筆者は4点、重要な点を追加したい。
弊ブログの読者はすでにお気づきだと思うが、そのひとつが「増産」という用語を使うことにより見落としている「余剰生産能力」の問題だ。
たとえば、ロシアにはもはや「余剰生産能力」がない。それが「1月生産水準での凍結」を呼びかけた理由だと筆者は判断している。
「余剰生産能力」をもつことは、民間企業では資本の無駄使いになるので、論理的に存在しえない。
OPECのなかでも、「余剰生産能力」があるのはサウジ(約200万B/D)と、経済制裁により長いあいだ政治的に生産を抑えられていたイラン(数十万B/D)、そして少量だが、二つの政府が共に正当性を主張し、争っているリビアくらいのものだ。
つまりサウジが「生産凍結」を行うと、イランを除いて供給量がさらに増大する可能性はほぼないのである。
だが、積み上がっている在庫の問題がある。
需給のリバランスは、計算上は来年には達成できる見通しだが、在庫がどの程度追加供給量となって市場に出てくるか、これも大きな問題だ。
さらに、イランの輸出が伸びない非技術的な問題として、米国の「イラン包括制裁法」により、イラン原油の米ドル決済ができないだけでなく、保険の問題もある。米国の保険会社は今でもイラン積み原油の海上保険を引き受けられない。これは再保険市場にも適用される。つまり、イラン原油の付保能力に限界があり、輸出増が困難になっているのだ。
そして最後に、事の性質上、なかなか実態が掴めないのだが、シェールオイルのDUC(Drilled but Un-Completed、掘削済み未仕上げ)坑井の問題がある。通常でも水平掘りまでの掘削作業を完了してから、水圧破砕を伴う仕上げ作業を行うまで時間がかかるのだが、油価下落の状況下、費用がもっともかかる仕上げ作業を意図的に遅らせている坑井がたくさんある、と業界では噂されているのだ。これらは、価格が少し戻れば短期間で生産に移行する可能性が高い。いわば、シェールオイルの「余剰生産能力」なのだ。
このような要素を総合勘案すると、価格が上昇基調に転ずるには今しばらく時間がかかると見るのがいいだろうな。