皆さんこんにちは。テスラウオッチャーのNick Sakaiです。拙稿「テスラが日本の自動車・電機メーカーを破壊する日」では、テスラと比較することで、日本企業はモノ造りの呪縛が解けず、顧客の視点に立ったCoolなソリューションの提供が苦手と申し上げました。今回は同じアプローチで日本版IoTに切り込んで見たいと思います。もう、「人生で必要なことはすべてテスラ先輩に学んだ」という感じです。
さて、IoTとはInternet of Things(もののインターネット)の略で、「コンピューターなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在する様々な物体に通信機能を持たせ、相互接続するネットワーク」のことです。そうすると膨大な情報Big Data が生まれます。今話題の、車の自動運転・EVの充電や、電力自由化のスマートメータなどはIoTとBig Dataの一部です。
実は、日本でIoTの歴史は結構古くて、例えばコマツの販売する建設機械には、2000年頃からGPSセンサーが搭載されていて、位置情報や運転状況、燃料などの情報を同社のデータセンターに送る「KOMTRAX」という仕組みを導入しています。もはや完全に日本語になった和製英語「コンビニ」の中枢神経となっている販売情報管理のPOSシステムは、元はアメリカ生まれですが、花を開かせたのは日本です。
じゃあ、何で今更なのかというと、欧米で新しい取り組みがあって、日本政府や産業界にバスに乗り遅れるなという危機感があるためです。ドイツでは、シーメンスやボッシュ、SAPなどの企業が政府と一緒にIndustry 4.0というキーワードを掲げ、国中の工場の生産機器をオープンネットワーク化する「スマート工場」を作ろうとしています。アメリカでは、General Electricやシスコ、インテルがインダストリアル・インターネット・コンソーシアムを作って、航空機エンジンや産業機器をネットワーク化して、ソフトウエア解析の技術を活用し、機器の運用効率の向上や製品自体の改良につなげています。
翻って日本では、企業毎には革新的取り組みをしているのだけれど、企業や業界の垣根を超えてネットワークを共有しよう(オープン・プラットホーム化といいます)という機運があまり高まっていません。そこで、日本政府は「成長戦略進化のための今後の検討方針」の中で「ビッグデータ・人工知能・IoT等による産業構造の変革」を掲げて、日本版インダストリー4.0とでも言うべき「インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ(IVI)」という 団体も昨年発足されました。大手メーカーや中小企業など約40社が参加し、ビッグデータによる予知保全や遠隔工場の操業監視といった技術の開発や標準化を進めようと尽力されています。
もちろん、これはこれですばらしい取り組みだし、皆様には是非頑張っていただきたいと思います。でも、私はこれは必要条件で、十分条件ではないんじゃないかなと思う訳です。また日本人のDNA=モノ作りの呪縛がでてきているなと。「いいオープンシステムを作れば、ユーザー(中小工場や消費者)が追いてくるはず。」というサプライヤー視点。テスラ先輩のように、顧客視点にたっての価値訴求がなされていないと思うのです。もっと単純にいうと「Coolじゃない。」
実は、テスラや Googleは、早晩米国で、そしていずれ日本でこのIoT業界にリアルに入ってくるだろうと言われています。太陽電池や蓄電池、電気自動車というパーツをインテグレートして通信や電力などのネットワークで顧客同士をつないでこれまでに無かったクールな価値を提供する。そういう顧客視点からIoTの供給サイドに入ってくると思うのです。日本のITや通信企業が、がっちがっちに固めたオープン・プラットフォームを作って、顧客が釣れるのを待つという釣り堀モデルと真逆のアプローチでやってくるでしょう。
ある超大手ITベンダーのサイトにIndustry 4.0の解説が掲載されていたのですが、その趣旨はこういうものです。
- IoTにおいて、ソフトウェアは最も重要な要素だ。
- ソフトウェアには、2種類ある。
- ひとつは全ての情報をネットワーク化して、クラウド上で膨大なデータをコントロールするシステム基盤
- もう1つはハードをソフトウェアによって追加拡張する機能
概ねそのとおりだと思うのですが、ひとつ大事なものが欠けています。それはなにかというと、
アプリです。
いいですか。生まれて初めてパソコンを電気屋に買いにきたお客さんに対して店員さんは「これは、こういうOSで、こういうCPUスペックだから買いですよ」と言うべきでしょうか。違いますよね。「このパソコンのアプリを使えば、こういう風にあなたの仕事や勉強が楽になりますよ、写真をデコレますよ。ラインでチャットできますよ。楽しいですよ」と価値を訴求すべきですよね。
今の日本では、そういうIoTのアプリの議論が殆どなされていないようです。どうしてかというと、結局はハードと高い基盤ソフトウエアを顧客に売るというサプライヤーの大人の事情が出てきてしまうからです。
あの80年代のSteve Jobs率いるMacintosh対IBMの戦いのように、TeslaやGoogleはメインフレームを凌駕する安価な個人用IoT基盤とガジェットを用意してくるでしょうね。
一つ例を示しましょう。テスラのサイトには「モデル3トラッカー」というマップアプリがあって、世界中でモデル3を予約している人が点で示されています。ポイントを点に当てると、どの都市でだれが予約しているか解る。ほとんど、欧米。(面白いのは欧州では圧倒的にドイツが多くて、アメリカでは西海岸より東海岸が多い。)モデル3が納入されるのは来年なのでお客さんを飽きさせない配慮です。「ひとりじゃないさプロジェクト」とでもいましょうか。自分がちゃんと認めてもらっている感じがするし、ご近所さんと連帯感がわく。
夢のある話をしましょう。例えばこのアプリを拡張して、この予約者たちがチャットしたり、情報交換したりできるようにする。車が納入されたら、誰がどこを走っている のか、様々な情報をユーザーとテスラのデータセンターがやり取りする、それを共有する、なんて拡張が容易に想像できますよね。IoTというのはそういうことです。難しいことではないし、あまりお金もかからないのです。Coolですね。IoT時代の新しいSNSです。
しかしです。大企業がこのように、大人の事情で動けないというのは、個人や中小ベンチャーにとって大きなチャンスです。IoTの共通基盤の上でマネタイズできるCoolなアプリケーションを作成するのは創造力さえあればよくて、資本はそんなにいらないからです。BtoBでもBtoCでもCtoCでも、顧客に新しくてCoolな価値を提供できるアイデアさえあれば、誰でも三木谷さんやホリエモンになれる可能性があるのです。まさに、2000年代初頭がIT革 命1.0であったように、これから2-3年間はIoTによるIT革命2.0とも言える激動期が到来するでしょう。この辺はまたの機会に。
私自身もCoolでマネタイズ可能なビジネスモデルを構築しようと、いろいろアクションを起こしていますので、ご興味がある方はどうぞ私のブログに遊びにきてください。